ファイル2:複製/コピー
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大量の食材を持ってきてくれたお礼ということで彼女に案内されたのは厨房だった。 ローストした何かの肉の切り身。 左をチラッと見ればそこにはこの料理に使われた食材があるだろう。 僕は恐る恐る手を伸ばし、ファルカポネの殻を素手でむいた。ぷりんっ、と勢いよく一口大の真っ白な身が出てくる。ほんのりと香るのは潮の香だ。 「どう? 美味しいでしょ? ダガンから採れた塩で茹でてみたの!」 背後に控えていたシェフが欲しくもない情報を言ってくる。 ダガンというのは黒い甲虫型のダーカーだ。 「フランカさん、食べてる最中に何使ったか言わないでくれってさっき頼んだばかりじゃないか……」 「だってリバーさん、とっても美味しそうに食べてくれるんですもの! ダガンもちゃんと調理すれば美味しくなるってわかったでしょ? 食わず嫌いはダメよ!」 振り返って叱りつけると、奇怪料理人フランカはまるで怯むことなくそう言う。 『フッ、見苦しい。元はと言えば君が彼女のオーダーを利用して、楽にレベルを上げようとしたのが原因だろう?』 Wis:個人通信が僕宛に届く。だが、そのWisを発しているのは今僕の左肩に浮いているマグ:ベレイである。 『うるさいな。今僕が話しているのはフランカさんなんだ。黙ってろよゼンチ』 『ゼンチという呼び方はよせと言ったろ! 僕は全知を識りたいだけで全知になりたいわけじゃない!』 『そんなに全知を識りたいならこの料理の味がわかるか? 分からないなら食ってもいいんだぞ』 オリジナルは全知に成ろうとしていたぞ、という言葉はこのコピーを酷く傷つける。 『ふむ、面白い。食べてみようじゃないか』 ……意外だ。 目の前のマグはテーブルに近づくと、食事を平らげ始めた。 「まぁ、リバーさんのマグ物凄い食べっぷりね!」 これは追加作らないと! と言いながら厨房にフランカさんは戻っていった。また何かを作るらしい。 マグのえさは多岐に渡る。食品、薬品、武器、防具、ディスク、家具。 『なぁ、ゼンチ。もしかして食事したの久しぶりなのか? お前の立場ならいくらでも食べれたろ?』 『浮上施設を管理していた時は食事をする必要はなかったし、そもそも出来なかったからな』 なるほど。何十年も囚人のような生活をしていたわけだ。 『それにこの料理は構成こそ既存料理を踏襲しているが材料との組み合わせは未知のものだ。非常に興味深いね』 Wisで通信しながら、ゼンチはそう言う。
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