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ファイル3:変革/Trans








『クーナライブをプロデュースしよう大作戦』
メルさんとベルさんが唱和したその名前だけでどういう内容かすぐに分かる。
(仮)でアークスの再定義をした後、それを曲に乗せてクーナに歌ってもらう、という作戦だろう。


クーナライブとはアイドル:クーナが行うライブイベントである。
ショップエリアのイベントステージで行われるそれは多くのアークスによって支持されている。
とはいえ、イベントステージにはそこまで多くのアークスは押しかけない。
生のクーナならともかく、そこにいるのは高精細度のホログラムに過ぎないからだ。
多くのファンは中継画面をモニターやホログラム、あるいは自分の網膜に直接投影している。

『な? マズイっていったろ?』

オタさんからWIS。
頭が痛くなってきた。
アイドル:クーナは始末屋:クーナでもある。ルーサーに対して並々ならぬ憎悪を燃やしていた一人だ。

「ええと、ベルさん。どうしてまたそんなことを?」

「ごろーちゃん鈍いなぁ。ってか、なんだか汗だくだけど大丈夫?」

大丈夫じゃない。
ゼンチがいることがバレたらどうなるか分かったものじゃない。

「オイオイ! みんなのアイドル、クーナちゃんが士気高揚のために歌って踊ってくれるんだぜ? リブートの狼煙にピッタシカンカン! そう思うだろ!?」

メルさんは興奮しっぱなしだ。この人、渋い形をしてアイドル好きだったのか。

理屈はとてもよくわかる。むしろ、これ以上ないくらいの案だ。
だから、同意せざるを得ない。

「OK。すごいアイデアだと思うよ! でも、アークスが何なのかっていう再定義を先にしてからクーナに打診をとったほうがいいね」

せめて毒の巡りを遅延させようと試みる。

「んー。今のうちに唾付けるだけ付けとこうよ。確かに曲とかまだ作れないけどさ。プロジェクト・リブートの書類見る限り半年以内にやらないといけないんでしょ?
 クーナのスケジュールが埋まると困るよ。絶対」

「おっと! 俺の見たところ、半年じゃ遅いぜ。その前に暴動が起きちまいそうだ」

まただ。こーきさんも言っていたけど、アークス−市民間の暴動が現実味を帯びているらしい。
アークスの疑念を払拭するのに早いに越したことはない。

どうやらクーナに関してはどうにもならない、と諦観する。

『リバー。クーナというのは、龍族改造実験の被検体だな?』

『そうだよ。お前のことを恨んでるぞ』

『しかし、彼女はオリジナルの死を見たのだろう? イベントクロニクルで確認したぞ。もう僕を気にしないと思うが』

『バカ。そんなんだからお前は人の心が分からないんだよ』

『ふむ……仮に僕を恨んでいるとしても僕がここにいるとバレなければ良いだろう』

『それはそうだけどさ』

できるのか? という言葉は飲み込んだ。もはや、やるしかない状況になっている。

「じゃあ、これからどうするんだい? クーナのアポをとる当てはあるの?」

「あるぜ!」

自信たっぷりにメルさんが答えた。


 

 

 

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