4th Chapter ツイン・ジーン
Cross Point









「何故?意外でも何でもないだろぅ?
 駐在した以上は部下を心配するものだ、違うかぁ?」

クツクツと嗤う490。
その姿に警戒したか、傍らのエミーナが身構える。
バカな娘だ。今更自分の立ち位置に気がついたのか。
もう遅い。
君は、ここで誰にも救われることなく死ぬのだから。
では――

(……何故僕は、こんなにも震えている?)

過去を消し去る事は、僕にとって幸せな事なんじゃないのか?
頭痛は吐き気を伴うくらいまで酷くなってきている。
これでやっと終わるという安堵感と、激しい違和感を同時に感じ、僕は490を目の前にして立ち尽くす。

「クク……では、楽しい楽しいショーの始まりと行こうじゃないか…こいつを血祭りに上げて、なぁ!!」

傍らのアイツは、大きく目を見開き――こちらへと震えながら振り返る。

「嘘だよね……?嘘だって…言ってよ。コレが……キミが望んだ事だっていうの?」
「……あぁ、そうさ」

――そんな顔を僕に向けるな。
哀しそうな、絶望に塗れたその表情は、僕の身体を縛りつける。

「どうしたぁ、ティル・ベルクラント?
 貴様が終わらせないのであれば、俺が終わらせるまでだが?」
「……いや、僕にやらせてくれ。決着は、この手で付ける」

そうだ。
僕がこの手で決着を付けると、あの時決めたんだ。この手で、全て終わらせる、と。
ともすれば力が抜けそうになる指先を、歯を食いしばって耐えつつハルヴァを構える。

「後はないよ、エミーナ・ハーヅウェル……君は、ここで死ぬんだから。覚悟はいいか?」
「ティル……お願い、目を覚まして!!」

――まだ、そんな事を言うのか。

「目を覚ますのは君の方だ。
 ……本当に馬鹿だな、君は。まさか、一人で僕の目の前にのこのこ姿を現すとは……」

本当に。本当に、バカな奴だよ、お前は。
殺される為に、ここまで、本当に、一人で。
立ちくらみと、頭痛は酷くなる一方で。

「……ッ、……やるしか、無いみたいだね」

悲しげな光を瞳に宿しながらも、強い視線でこちらを見つめ返してくるエミーナ。

(へぇ?いい目をするじゃないか……)

でも。一方でこうも思う。
儚く、簡単に崩れるようなものなんてイラナイ、と。
僕が欲しいのは、確固たる居場所。
それを得るためなら――。

「ふん、一人で何ができる?何秒耐えられ――」
「490。こいつは、僕の獲物だ」
「ふん?今更だなティル・ベルクラント、あれだけの失敗を重ねてどの口が言うのだ!?」
「聞こえなかったか?こいつは、僕の獲物だ。邪魔をするな!!!!」

言うとちょっと楽になった気もする。
そう、コイツに手を掛けるのは、僕だけの特権だ。僕だけの、獲物だ。
ちろり、と乾いた唇を舐めて湿らせて、僕は彼女に冷酷に宣告を下す。

「君は、僕が斃す。僕だけに、ね。さぁ、いくよ?」
「――来いッ!」

僕の呟きと、彼女の叫びと。
響く声が、火蓋を切った。










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