ギッ、ギウンッ!
耳障りな金属とフォトンが弾きあう音と、軽い衝撃。
アイツの頭を真っ二つにするはずだったテュポーラの刃は、その衝撃で大きく軸がぶれ。
更にはフォトンラインに致命的なダメージを喰らったらしく、ブレードに浮かんでいたフォトンの発光が急速に減衰していく。
(……狙撃だと?
こんな近くにいるなんて……思った以上にガーディアンズの展開が早いのか!?)
半壊したテュポーラを左へと旋回させて、その反動で僕は音の発生源へと目を向ける。
しかし、そこにいたのは――
「探してた道ってのは……こんな事かよ、ティル?」
「"店長"……!?」
「気になって追ってきてみりゃ、なぁ。結局てめぇも、それしかねぇってのかよ……?」
硝煙の煙をたなびかせる小型マシンガンの銃口をこちらへと向けた、悲しげな表情を浮かべた"店長"の姿、だった。
何故、貴方がここに?何故、僕の邪魔を……?
「邪魔をするか貴様ァ!!
ティル・ベルクラント!裏切り者を"消去"しろッ!!」
「490?!」
「裏切り者には死、あるのみ。分かっているだろう?さぁ、とっとと始末しろ」
「……!?」
怒りは霧散し、困惑と焦燥が僕を支配して、その場に立ち尽くす。
理性では分かっている。ルールを破った者には罰が必要だと。
だが――そんな事、"消去"なんて出来るわけがない!"店長"は、僕の育ての親で――!
「えぇい、肝心なときに使えん奴め!デリータ部隊、纏めて薙払――」
「……っそッたれぇっ!!!!」
数瞬の躊躇。
その間にアイツが、"店長"を……いや、店長と僕を守る為に動く。
本当は"店長"を守る位置に、僕が居なくちゃいけないのに……。
本当は、僕はアイツを斃さねばならないのに。
何故オマエは、僕の立ち位置に勝手に入ってくる?
何故オマエは、敵対する僕を護ろうとする?
何故……。
「撃てェッ!!」
「チッ、これだから短気なヤロー共は……!!」
気が付くと、大きなサバイバルナイフのような大剣を軽々と掲げた"店長"が、高出力フォトンライフルを構えた"デリーター"達に囲まれている所だった。
あんなのまともに喰らったら、後には塵も残らない――!
「"店長"ッ!」
予測される未来に、僕は悲鳴を挙げる。
しかし、その瞬間は訪れなかった。
"店長"が過去に――幼子だった僕に見せてくれた、あの時の動きのままに。
「おらよっと!」
無造作に振られたように見えた"店長"の大剣は、炎に水を浴びせたような音を発しながら、フォトンビームを全て受けきる。
唯の金属の塊が、高出力のフォトンビームを相殺できるわけがない。
今ならわかる、恐らくあれは――特殊加工が施された一種の対フォトン専用武装。もちろん、武器の性能だけであの離れ業は実現できるわけがない。多くの時間を費やしたうえでの動きであって、初めて成り立つものだ。
「な…んだと?!」
「曰く、"火消し屋"ってなぁ、俺の事だ」
あぁ、そうだ。
幼い時の僕は……この人の背中を目標にしていたのだった。
厳しくて、あたたかで。
追いつきたくて、追いつけなかった、その大きな背中に。
「"店長"、何故、貴方がここに……?」
困惑と、嬉しさと、ないまぜになったような思いで、僕は"店長"に問いかける。
これは、僕のケジメをつける戦いのはずで、"店長"が出る幕では――。
「前にも言ったろうが。
俺ぁ、テメェの事が見てられんのよ。線が細いくせしやがって、無理ばっかりしやがって。――もう一度 はっきり言うぜ、お前はこの稼業に向いてねぇよ。とっととやめちまえ!!」
「……ッ」
"店長"……貴方は、僕をもう、必要としないのですか。
僕はもう、いらないのです、か?