Cross Point
5th Night...[ホントウノキモチ]



 




熱が、零れて行く。
身体が、芯から冷えていくような感覚を覚えて。勝手にガクガクと震える。
そうだ。これは――あの時と、同じ。
おとうさんと、おかあさんと、そして、ルシーダ……しーちゃんと、はなればなれになったとき。

「かは……ぁ、ぐ……ッ」

右胸が、締め付けられるように痛い。記憶を取り戻してから、一つ、また一つと思い出す度にボクの右胸は悲鳴を挙げる。
まるで、記憶を失っていた事を咎めるかのような、痛み。

(……また、ボクは――ルシーダを、助けられない?)

相手は身なりは小さくても、恐らく中身はあの、あの時のマガシオリジナルの内の1体。
利き腕は負傷して動かせない。打つ手も、無い。
"あの時"の事を思い出すまでは、ここで諦めていたかもしれない。でも、今のボクは――。

(そんなの、認めない……何の為にここまで来たと、思ってるんだ……!)

もう、ルシーダに何も失ってほしくないから。
もう、ルシーダに失わせたくないから。

(ウィルと……約束、したんだ。
  生きてやる。ルシーダと一緒に、絶対、生きてやる!!)

そして、ボクも二度と失いたくないから。
だから、最後まで抗ってやる。

(デフバライドが、確か……あった)

血で滑る、震える左手で首に括りつけてあるナノトランサーを操作し、残っていた止血剤代わりのデフバライドを口に含む。
鉄の味が口の中に広がり……吐きそうになりながらもなんとか飲み込む。

「もう僕に構うな、エミーナ……。
 もうやめろ……やめてくれ……!こんな事、こんな無意味な事……何故、お前は……っ!!」

ルシーダの、泣きそうな声が聞こえた。
失血と痛みとで濁り始めた思考の中、ダブルセイバーを杖代わりに必死に起き上がって彼女を見る。

「無意味なわけ……ないよ。キミを助ける――それが今の、ボクの意味だもの」
「……くく、ハハハッ!!ここまで私に手間を掛けさせたのは、貴様らが初めてだよ。
  美しき姉妹愛って奴に免じて――冥土の土産に、一つ昔話をしてやろう」

490は、演劇の登場人物のように芝居がかった身振りをすると、低い声で話し始めた。