(さて……そろそろ、ちゃんと聞くこと聞かないとね)
ルシーダと全力での戦闘の末、ようやく分かりあえた、その数日後。
パルムの自宅、ウィルの部屋目の前で、ボクは大きく深呼吸していた。
しくり、と右胸が痛んだけど……とりあえずは無視する。これは乗り越えなくちゃいけない試練みたいなものなのだから。
「ウィル、居る?」
「お、エミか。
今回の事件の発端、そろそろ聞きたい頃だろ?父さんも居るから、居間で話を聞こう」
「あっは、バレてら……うん。お願い、出来るかな?」
ボクが聞いてくるであろうことは、二人とも先刻ご承知だったみたいだ。
紅茶を淹れ、リビングのソファにボクとウィル、 そしてお養父さんが向かい合って座る。
「……さて、聞いても良いかな?お養父さん、ウィル兄?」
フラットなボクの言葉に、二人は顔を見合わせ苦笑した。
「先日の事件で、記憶を取り戻せたみたいだね。エミが聞きたいのは、その事なんだろう?」
「うん……その、さ。なんで、教えてくれなかったのかなー、って」
「其処については……幼少時代のエミに余計な精神ストレスが掛からないようにしたい、って俺が進言した事だったんだが……。
むしろ逆に、余計なストレスを溜めこませちまったみたいだな……すまない、エミーナ」
「ウィルの意見を支持したのは私だ。だから、私からも謝らせてくれ……すまん」
ウィル兄も、お養父さんも、すまなそうに言って、頭を下げる。
ボクの事を心配して、余計な負担にならないように、って配慮してくれていたのは、今では十分理解できてる。
だから、ありがたくも思ってるんだよ?
「お養父さんも、ウィル兄も、顔を上げてよ。二人の気持ちは、分かってる積もりだよ?
それに、あの時……ウィル兄が助けに来てくれなかったら……」
正直……ボクは、ここに居なかったかもしれないし。
でも、ね。
「でも……やっぱり、教えてほしかった。ルシーダの事や、本当の、両親の事」
言いながら、右手で絞るような痛みを生む右胸を掴む。
正直、まだ記憶を取り戻したショックから完全に立ち直れたわけじゃない。けど……。
「エミ……」
ボクは目を閉じ、俯いたまま一息を入れて、左手をウィルの顔の前に立てる。
伝えよう。心配するな、って。これは、お仕着せじゃない、ボクの意思なんだ、って。
「ん……っ、大丈夫。
それに……これは逃げちゃいけない事だって、思うから。だから……教えてよ?知ってる事、全部。
ボクも、全部受け止めるから」
「……強くなったんだなぁ、エミーナ。昔はあんなに泣き虫だったのに」
「んもぅ!茶化さないでったら、お養父さん」
怒った素振りをして、方の力を抜き、ふぅ、と一息。まぁ、硬くなりすぎても何だしね。
ボクの家族は、過去のミュール家だけじゃない。今、目の前に居てくれる、ハーヅウェル家でもあるんだ。
「それに、ね。今のボクには……たくさんの仲間が居る。居てくれるって、やっとわかったから」
ウィルとちらりと視線を交わし、自然と笑みが浮かぶのをボクは抑えられなかった。
彼ともう少し先まで進むのはまだまだ先のお話、だろうけど、ね。
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