―同時刻、"レッド・ナイツ"ドラッグ保管庫―
「さて、これで終わり、と。」
ガレスは、ハードディスクを懐に収めると立ち上がり、部屋から出る準備を始めようとした。
その時、凍結したはずの扉が内側に向かって吹き飛び、室内に二発のスタン・グレネードが放り込まれた。
「なっ!?」
考えるより先にガレスの身体が反応し、ギゾンテを放ち、爆発する直前のスタン・グレネードを空中爆発させる。部屋の内外が閃光と大音響に包まれる。
「くっ!」
一瞬の隙を突かれたとはいえ、ガレスもハンターズである。手探りでバックパックと杖を掴むとドラッグのコンテナの裏に潜り込むとトラップの起爆スイッチを押した。
―ズズンッ―
腹に響くような爆発と共にプラスティック爆弾に取り付けていた釘の袋から高初速で打ち出された釘が、クレイモア地雷のベアリングよろしく先行して部屋に突入してきたアンドロイド達を貫いていく。無論、装甲の厚い部分は釘を弾くが、装甲の薄い間接部分や爆発に近い頭部に致命的な
ダメージを負い、アンドロイド達が崩れ落ちた。
「くそったれが!」
ガレスは自分にアンティを掛けて状態異常―正確には麻痺しかかっている視力と聴力―から復帰すると、デンタルミラーを取り出して、敵の数を確認しようとした。コンテナの影からデンタルミラーを出した瞬間、デンタルミラーがフォトンの雨を浴び、先の鏡の部分が消滅する。
「…ちっ!」
包囲/突入のワンセットが続かないのは、相手に人数が揃っていないから行われていないだけであり、時間が経過すればする程状況が悪化するのは目に見えている。だが、ガレスはまだ、戦意も正気も失っていなかった。
ゾンデが放たれ、室外―アンドロイド達の残骸の向こう側―に派手に落雷が確認され、それと同時に狂ったようで―それでいて確実にガレスのいる付近に着弾する―濃厚なフォトンの雨が降りしきる。
―対ショック系装備かい!―
2発目、3発目とゾンデを放つが、より精密な射撃がガレスのいるコンテナ付近に叩き込まれる。
「…無駄な抵抗を止めて出てきたらどうだ!?オークニー家のボンボン!
お前さんの得意なゾンデ系は効かないんだよ!」
―こっちの正体がばれている?…当然か、向こうもハンターズだ。しかもバックにはブラック・ペーパーがいやがるもんな。―
マンションにロケット弾を撃ち込まれた時から、ある程度予想出来ていただけに、ガレスも得意な手―ゾンデ系テクニック―が使えなくなる事は覚悟していた。
「…大きなお世話だ!」
相手の挑発に答えるように怒鳴り返すと同時にもう一つの起爆スイッチ―"アナザ・ドライブ"の入ったコンテナに仕掛けた焼夷系爆薬の起爆スイッチ―を押す。
―ボンッ―
軽い振動と共にガレスのいるコンテナより離れた位置にある数個のコンテナから一斉に火柱が上がる。
「めくらましのつもりか、ボンボン!?」
ガレスのいるコンテナにコンバットから放たれたフォトン弾が立て続けに着弾し、コンテナを破壊する。コンテナの中身であるドラッグの白い粉が室内に飛び散る。
「くっ!やばい物ばら撒きやがって!他人までヤク漬けにする気か!?」
自分が原因である事を棚に挙げてファントムは毒づき、慌ててガスマスクを取り付けようとする。
その時、ガレスは別のコンテナの影に移動してテクニックを発動した。
―キィーン―
高初速で放たれた氷の矢―バータ―がファントムに向かって直進してくる。
「そんな、初級テクニック、食らうと思った、のあ!?」
―ゴオッ―
軽いフットワークで回避できると思ったファントムが目にしたのは、回避運動を予想したかのように放たれたファイエの炎塊であった。
―かわせない!―
ファントムは回避が間に合わないと直感で感じ取ると両手を交差して顔面への直撃を防ぐ。左腕に装着しているDBの盾越しに高温が肉を焼き、嫌な臭い―たんぱく質が焼ける臭い―が鼻に付く。
―クソッ!―
ファントムは遮蔽物―コンテナ―の後ろに回り込むと、レスタを唱えた。身体の新陳代謝が極度に高まり、炭化こそしていなかったものの重度の火傷を負っていた腕が見る見るうちに修復されていく。
―あの、クソ餓鬼が!―
毒づくのを辛うじて押さえ込んだファントムは、視界の片隅に青いローブのような物が、別のコンテナの裏に移動するのを捕らえた。
―それで隠れたつもりか!―
ファントムは青いローブの隠れたコンテナに、迂回して気付かれない様に接近する。
やがて、コンテナ越しに青いローブを着た男を見つけ、音も無く後ろに回り込み、鮫のような笑みを浮かべながら無言でコンバットのトリガーを引いた。あっという間に蜂の巣になる青いローブ。
―やったか!?―
だが、手応えは無く、そこには穴だらけになった青いローブと、それを立掛けていた杖―ブレイブハンマー―が転がった。
「な!?」
思わず声を上げたファントムは、その時、自分に叩き込まれる光の刃―グランツ―に気付く事無く意識を失った。
「ふうぅ。…結構、簡単に引っかかるんだな…。」
ガレスはグランツの直撃に耐えられずひっくり返っている男―ファントム―に触れない様にそっと杖とボロボロのローブを拾い上げた。
ローブの方は呪術結界のお陰か、まだ纏える―それでも浮浪者のボロと五十歩百歩だが―が、杖―ブレイブハンマー―はコンバットから放たれたフォトンの直撃で中央からひん曲がってしまい、使い物になりそうにない。
―トラップは人の心に仕掛ける物―
ケイの言葉を思い出しながらガレスはローブをはおり直し、バックパックを背負い直すと、リオネスと合流する為にその場から静かに立ち去った。
―数十分後、"レッド・ナイツ"本拠地 首領室―
鋭い斬撃が宙を舞い、空間を切り裂く。
「くっ!」
ギリギリでフロウウェンの大剣の軌道を回避しながら、リオネスはタイミングを計った。
―今さっきまで戦っていたアンドロイド達とは実力が違いすぎる。―
目の前のアンドロイド―"L"―の実力は、やはり、桁違いである事を(認めたくはないが)認めるしかない。
今まで相手にしてきた人間やニューマン、アンドロイド達とは違い、常に次の一手―否、もしかしたら、十手以上先―を考えて繰り出してくる斬撃に次第に防戦一方になってしまっているリオネスはそれでも、チャンスを待っていた。
一方、"L"も内心の驚きを隠せなかった。かつて、軍の特殊部隊として名高いWORKSに所属していた時―かつて人間であった時―でさえ、自分の斬撃に耐えられる者はなく―否、五人いたが、結局、誰とも手を合わせる事無く、自分自身が裏の世界に入らねばならなくなったが―立ち塞がった者全てを地に伏せる自信があった。
が、目の前のニューマンの女性は、荒削りで、時には身体に傷を負いながらも、自分の放つ斬撃を確実に防ぎきっていた。そして、その防御技術は(皮肉な事に)自分の攻撃を凌ぐ度に確実に進歩している。
(この小娘、思った以上にやる。ちゃんとした師匠につけば、一流の剣士になれるだろう。しかし!)
「どうした、私を倒すのではなかったのか?それとも、口先だけの発言か!?」
"L"は敢えて挑発した。リオネスは黙したまま"L"の攻撃を時には受け流し、時には避け続けた。
が、表情に僅かに浮かんだ焦りと怒りを"L"は見逃さなかった。
「フンッ!所詮、ストリートの住人が。お前も、この間、嬲り殺しにされた仲間達と同じか。」
「!」
この戦いが初まって、初めてリオネスの表情が変わった。畳み掛けるように挑発を続ける"L"。
「あいつ等は、浅ましかったな。自分が生き延びる為なら、平気で仲間を売り、いざ、自分の番になったら見苦しく命乞いをしたな。」
「…な、仲間を侮辱するなあっ!」
押えていた物が外れたかのように、リオネスが咆哮した。表情が憤怒に歪む。
「ほう、怒る事が出来るか…否、怒る振りはできるのか。」
挑発を繰り返しながら、"L"は構え直した。
次の瞬間、リオネスが放った斬激が"L"を襲った。が、それは、"L"の予想を超えた攻撃であった。
幾筋かの斬撃を、フロウウェンの大剣の一振りで捌いていたが幾太刀が"L"のボディに微小ながらも傷を負わせた。
だが、このラッシュもリオネスが疲れきるまでの物である事は"L"には判っていた。事実、剣先の速度は闘志の割に確実に鈍ってきている。それでもリオネスは―自分の非力さに涙を流しながらも―攻撃の手を止めなかった。
(そろそろ、幕を降ろしてやるか。)
"L"はそう決めると大剣の構えをわざと浅くした。リオネスの斬撃が"L"に振り下ろされる。
―ギンッ―
重い音と共に"L"の手からフロウウェンの大剣が離れる。
「もらったあっ!」
リオネスが渾身の力を振り絞って刺突を放つ。
―ガスッ―
鈍い音と共にリオネスは自分の勝利を確信した。だが―
「…甘いな、小娘。」
「…馬鹿、な!?」
リオネスの放った刺突は確かに"L"の顔面を捉えたはずであった。が、"L"はギリギリでかわし―それでも、鳥嘴状のフェイスカバーは弾き飛ばされたが―単分子ネイルを展開させた右手の手刀が、リオネスのジャケットの腹部に埋め込まれていた防弾/防刃用のセラミック・プレートを貫いていた。
「…終わりだ。」
ゆっくりとリオネスの身体から血塗れの右手を"L"は引き抜き、血を払った。それに引きずられるように、無言で崩れ落ちるリオネス。その、顔に浮かぶ無念の表情に、一瞬、まったく別の女性―かつて愛して守れなかった女性―の横顔が"L"の脳裏に過ぎった。
(モルゴース、私は何処に行くのだろうか…。少なくとも、君が好いていた騎士ではなくなったな…。)
その時、階下で凄まじい爆音と怒号が響き渡る。
("レッド・ナイツ"の残党の逆襲か!?)
当初、そう思った"L"であったが、念の為に階下に展開しているアンドロイド達に処理の命令を下そうとした。が、アンドロイド達は、侵入者を確認する事無く、一体、また一体と生存を表すパルス信号を途絶していった。
「ほう、少しは出来る奴がいるのか?」
念の為、ファントムに通信を入れる。が、返って来るのはノイズ雑音だけであった。再度、呼び出しを行うが応答が無い。
「…あの男程の手錬が!?」
その時、正面の扉が開き、入ってきた人物を見て"L"は一瞬、自分の眼を疑い、そのまま絶句した。
ガレスは、部屋の中の惨劇に一瞬眉を潜めたが、それよりも、部屋の真中で血溜りの中に倒れこんでいるリオネスと、その側で自分の顔をみて言葉を失ったまま硬直している、ヒューキャスト―否、ヒューキャストの身体を持った、母親の愛人―を見て驚愕の表情を隠せなかった。
「…何故、あんた、生きてるんだ?…ラ、ラモラク=ガーランド!」
(何故、彼が…!)
かつての名で呼ばれ、"L"―ラモラク―は、目の前の少年が発した言葉で硬直を解かれたようにフロウウェンの大剣を拾い、距離を取った。
それに数瞬遅れて、ラモラクがいた位置に次々とファイエが放たれる。そのまま、遮蔽物になる机―かつて、この部屋の住人だったレッド・ナイツ"の首領が使っていた社長用の大きな机―に隠れて、ラモラクはアンドロイド用のディメイトを体内に摂取した。
その隙に、ガレスはリオネスの側により、彼女を抱え上げると入り口付近まで後退する。そのまま、リオネスのポシェットに入った包み―別れた時に渡した包み―を取り出し、それの梱包を解いた。
人型の形をしたそれ―科学魔法と医療/修理用ナノ・マシーン技術の集大成で、持ち主の生命反反応の損失とともに起動、持ち主の修復を始め、瀕死の持ち主の代りに朽ち果ててしまう事から、古の贄人形(スケープドール)と同名で呼ばれる―が崩れ落ちている―リオネスの身体の再生を始めている―のと、リオネスの胸がわずかだが上下に動いているのを確認して安堵の表情を浮かべると、そのまま、リオネスが使っていた偽アギトを拾った。その、左肩の定位置に(先程まで、所在無げにリオネスの周りをくるくる回っていた)ニドラがゆっくりと待機した。
「…迷って出てきたのかどうかは知らんが、ブラック・ペーパーの手先に成り下がりやがって!あんた、本当にお袋の惚れた…!」
「その、彼女ごと私を爆殺したのは、卿の兄弟ではないか!」
ガレスの怒りの篭った罵声に思わず応えてしまうラモラク。
「…ああ、そうだよ!」
「ほう、知っていて止めなかったのなら卿も同罪だぞ!?」
「知ったのは、あの事件の後だ!ついでに言わせてもらえば、移動用の車輌に設置された爆弾の発見/処理を行うのは、エスコート護衛についていたアンタらWORKSの仕事じゃなかったのか!?」
「…卿は知らんのか?」
「何?」
「あの爆発で、車輌のチェックを行った奴も死んだのだぞ。」
「…なるほど。口封じの為にか。」
「そうだ…。」
そこまで応えると、ラモラクは遮蔽物代わりに使う予定であった机の裏から、フロウウェンの大剣を下げて現れた。
「…肉体を失った私を救ったのは、"ブラック・ペーパー"だった。そして、彼等は我が復讐の為に力を貸してくれる約束をした…。」
「!」
「…そう、彼女を殺した息子達に復讐する為の、な!」
次の瞬間、ラモラクが動いた。一瞬で、距離を詰め、ガレスへ必殺の一撃を放つ。
「くっ!」
反射的に飛び退りながら、ギゾンテを立て続けに放つガレス。だが、電撃はラモラクの表面装甲を伝い、そのまま床に放電されてしまう。一方、振り抜かれた大剣がガレスのローブの袖を切り落とす。
「…よけたか。」
ガレスの反射神経に舌を巻きながら、ラモラクは努めて冷徹に呟いた。それに対するかのように、ガレスも偽アギトを構え直す。
「どうしても、遣り合うしかないようだな。」
そのままの姿勢で、シフタとデバンドを発動させるガレス。
「…そうだな。もっとも、卿が私に勝てるとは思えんがな?」
「そっちこそ、ハンターズの、否、フォースの戦い方を見せてやる。…後悔するなよ!」
「ほざけ!」
―二振りの剣の軌道が、恐ろしいスピードで交差した。―
―同時刻、"レッド・ナイツ"本拠地 正面玄関前―
「ふう、…疲れた。まさかあんなに集結されるなんて…。」
ケイは息を整えると、先程の戦闘で消耗したジャスティスのフォトン・カートリッジを取り替えて腰部のホルスターに収め、脇の下のブレイバスを取り出した。玄関前の支柱の所まで辿り着くと、セフティを解除する。
「本当に疲れました…。まさか、12機もいたなんて…。」
ケイに答えながらヤマトのグリップ部に内蔵されているフォトン・カートリッジを交換するとウィルは、ケイの隠れている所とは逆サイドの支柱の陰に隠れる。
やがて、ケイの左掌がウィルに見せるように支柱の影から現れる。それを確認すると、ウィルも頷き、ヤマトを腰のスロットに収納すると、ヴァリスタを腰部ホルスターから引き抜く。ケイの左掌が軽く振られながら指を一本一本折っていく。
そして、最後の一本を折ると、ケイが支柱から飛び出し走り出す。それに連動するように支柱から半身を覗かせ、何かあった際にケイを射撃で支援できる位置に入るウィル。
しかし、物の数秒もしない内にケイが前進の合図を送ってきたので、訝しがりながらケイの側に移動したウィルが見た物は、無残に殺された"レッド・ナイツ"の構成員達と、同様に破壊させられたアンドロイド達の骸の山であった。
「…これは!」
「ええ、あの子もここに来たようね。高温や直流電流で焼かれない限り、このような人工筋肉の縮小は起こらないから…。」
「…けど、これはガレスのだけではないようですね?」
ウィルは、ケイが見つけたのとは別のアンドロイドに近付き、ケイを手招きした。そのアンドロイドの切り口はヒューマーであるウィルが見ても、見事、としか言えない物であった。
「…フォトン系ではなく実剣、切れ方からして刀でしょうね…。」
「ギャング達の遺体は、フォトン系のウェポンの傷だった…って事は?」
二人が顔を見合わせた瞬間、ビルの上の階から爆音が響き渡った。
リオネスはすぐ側で起きた爆音で覚醒した。
「ん?…確か…。」
思わず腹部を見ると、服は破け、インナーのセラミック・プレートの欠片に血糊がついているが、腹部には傷跡一つ見当たらない。
更に周りを見ると、先程自分が戦っていた部屋―"レッド・ナイツ"首領室―ではなく、その入り口に自分は動かされており、そして、自分の代りに見覚えのある人物―ガレス―が例のアンドロイドと戦っているのである。
しかも、ガレスは着ているローブもボロボロで、あちこちに傷を負っており、防戦一方とも言えるような戦い方をしている様に見える。
「…嘘、嘘でしょ!?ガレス、何であんた、ここに来たの!?」
が、ガレスは、その言葉は聞こえてないかの様に、真剣な表情で攻撃を防ぎ(それでも、防ぎきれない斬撃が身体を掠め、確実に傷を増やしている)、例のアンドロイドが攻め切る為に立ち位置を変えるべく距離を取ったり、構えを変えるような隙が出来ると確実にファイエやラバータを唱え、付入る隙を可能な限り押え、寧ろテクニックを使う事でともすれば自分が受けているダメージ以上の傷を確実に相手に与えている様にも見えた。
だが、それはガレスの肉体だけでなく、精神にも多大なダメージを与え続けている事をリオネスは知らなかった。
「…くっ!」
ラモラクは視界の片隅で先程倒したニューマン―リオネス―が、眼を醒ました事に気付いた。幸い、何一つ武器を持っていない為、脅威には成り得ないが、やはり、この戦いの後の撤収に影響を与える可能性は十二分にある。
また、目の前のガレスも、自分の想像を越えた敵である事は認識せざるを得ない事実である。最も、目の前のガレスは肉体の傷よりもテクニックの連続使用による精神疲労の方が酷く、いつ崩れ落ちてもおかしくないような状態だが、何かに憑かれた様な表情で自分の前に立塞がる。
(…こ奴、死兵だな…何が卿を突き動かす?)
その時、ガレスの放ったファイエ―否、ラファイエ―がまともにラモラクを包み込んだ。
―ドォォンッ―
ラファイエの直撃を喰らったラモラクが、その爆風で吹き飛ばされていくのを見たガレスは、崩れ落ちるように片膝を付いた。
(トリフルイド、残っていたっけ!?)
割れるような頭痛と、身体中に負った裂傷や打ち身、そして今までの疲労で、ともすれば途切れてしまいそうな意識を必死に繋ぎ止め、バックパックに手を伸ばす。
「…ガレス!」
リオネスの声に気付きそっちに顔を向け、リオネスの必死の表情に気付いたガレスが振り向いた時、ガレスに斬撃が叩き込まれた。
―ガキンッ―
ガレスが反射的に受け止めた斬撃は、今までの酷使に耐えていた偽アギトをへし折り、情報端末付シールド発生装置に取り付けていたリジェネレイト・ギア―但し、試作品―が展開したフォトン・シールドごとガレスを吹き飛ばした。
「ごはぁ!」
吹き飛ばされたガレスはそのまま数mの距離を滑空して、机に思いっきり叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。
「…中々やってくれたが、詰めが甘かったようだな!」
ラモラクは―冷徹な彼にしては珍しく―心無し少し上擦ったような声で喋りながら、フロウウェンの大剣を構え直した。身体中のあちこちから煙を揚げているものの、ガレスのラファイエに耐え切ったラモラクは身体を強制冷却モードに切り替え、放熱を行いながら体内に備え付けられているドラッグ・スタビライザ薬物投与装置からトリメイトを取り込む。
視界の一部に表示された身体の状態モニタに表示されたアラートが瞬く間に消えていく。
「…所詮、フォースが頑張っても、専業戦士には勝てない、と言う事だ。」
そう言いながら、机の前に倒れ付したガレスに向かって歩き出すラモラク。その時、ガレスの前にリオネスが飛び出し両手を広げてラモラクを遮った。
「…どけ、…でないと、死ぬぞ。」
「いや、どかない!こいつを切るなら、あたしを切ってからにしな!」
威勢良く、啖呵を切ったリオネスが一歩前に出る。
(…同じ瞳だな、愛する者を守る時の女の。)
かつて自分の肉体を奪った爆発の中、覆い被さっていた自分を突き飛ばし、逆に覆い被さった恋人の瞳と同じ鋭さと強さを持った、目の前の女性の胆力と行動力に敬意を払いながらも、ラモラクは歩を進めようとしたが、リオネスは一歩も下がる事無くその場を動かなかった。
「…脅しではないぞ、女!」
ラモラクは最終警告をすると大剣を大上段に振り上げた。そのまま、振り下ろすべく、距離を詰める。覚悟を決めたリオネスは、それでも目を逸らす事無くラモラクを睨みつける。
「…下がってくれ、リオネス。彼は本気だよ。」
「ガレス!?」
「…ほう、意識を取り戻したのか。」
「ああ、おかげ様でね。」
そう言うと、ゆっくりとだがガレスは立ち上がった。左手には無針注射器が握られていたが、その中身は既に空になっており、ガレスは無造作に無針注射器を投げ捨てた。が、そのまま、崩れ落ちそうになる。
「ガレス!?あんた、どうして!?」
慌てて駆け寄り、ガレスに肩を貸すリオネス。その肩を借りるものの、自分の足で立ち上がるガレス。
「彼との戦いは、途中から君だけの闘いだけじゃなくなったんだ。」
「…どういう事よ!?奴は私の…仲間達の仇よ!」
ガレスの意外な発言に突っかかるリオネス。
「…昨日、話したよな?うちの家族の事。」
「?ええ。」
「…目の前の男は、俺のお袋の愛人だった。」
「!!」
「…親殺しの罪は、兄弟で背負う物のようだな…。」
「そんな、あんたは…。」
「昨日、今日の付き合いの君ですら、俺の為に身を投げ出して助けようとする。まして、恋人の仇の身内だ…。」
その時、リオネスは目の前の仇―ラモラク―が無言で立ちすくんでいる事に気付いた。そのまま、ラモラクを見据えて言葉を紡ぎ出すガレス。
「…ただ、だからと言って、俺は討たれてやる気はない。」
「ほう、恋人の命乞いでもするのかと思ったら…意外と足掻くつもりなのだな。」
「…ちょ、ちょっと!誰が誰の恋人よ!」
努めて無感情に答えるラモラクに抗議するリオネスを横に、ガレスはさらりととんでもない事を言った。
「…ああ、約束したんだ。…これが終わったら、さっきの続きを楽しむってな。」
「…バカッ!」
赤面したリオネスに頭を叩かれ、バランスを崩しそうになるガレス。
「…ほう、そう言う戯言は、私を倒してからにしろ!」
ラモラクの斬撃がガレスに振り下ろされた。
―ドンッドンッ―
"フロウウェンの大剣"の峰に立て続けでフォトン弾が着弾し、ラモラクは振り下し掛けた大剣のバランスを器用に取り戻して構え直すと、射撃された方向―部屋の正面扉―に向き直った。つられるように射撃があった方を見る、ガレスとリオネス。
「何奴!」
「…そこにいる馬鹿弟子の師匠だ。」
「―そう言う事。」
彼等の視線の先には膝射でジャスティ-23STを構えた女性―ケイ―と、ヴァリスタを立射姿勢で構えた男性―ウィル―が居た。
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