■Kisovi Side
「……唐突に休暇言い渡されたと思ったら、秘密裏に独断専行した機動警備部隊員を追って、そいつと落ち合う予定の"イルミナス"工作員を保護しろ、だって?」
唐突な休暇の代わりに総合調査部からの出頭命令を受けて何の用だと来てみれば、囮捜査の真似事してる機動警備部隊員の救助とはなぁ。
「えぇ。その隊員は超法規的に捜査を行い"イルミナス"の尻尾の端を掴んで、今単独で旧ローゼノム・シティへ向かっている。でも、法規を越えている以上――」
「皆まで言うなよ。
そりゃ正式な増援も送れないし、相手が相手だ。大手振って動くわけにもいかんよなぁ……」
"イルミナス"は何処にでも太いパイプがあると見られていて、大きな行動を起こせば即察知されて綺麗さっぱり逃げられるか、狩り出そうとしても組織の上に働きかけられ、圧力という名の妨害工作で封殺されるかのどちらかだ。
文字通り鉄面皮な俺は表情を変えることは出来ないが、流石に今回はアイカメラのシャッターが半目に位はなるってもんだぜ。何処のバカだ、化け物みたいな組織に単独でケンカ振っかけたのは。
「確認だ。"鴉の淑女"のアンタが直接頼みに来たってことは、俺らがその場に"居合わせる"為の理由は用意してあるんだろうな?」
「えぇ、表向き該当エリアでの捜索員にねじ込んでる。本来の捜索ポイントとは若干ズレるけど、問題は無いわ」
「もう一つ。"捜索"行動中に消費する"資材"の手配は?」
「もちろん危険手当込みで。調査費用持ちだからちょっとそっちへの支払いに時間掛かるけど」
「最後に。今回の対象者は?」
ケイさんは一つ頷き、対象者の名を告げた。
「――対象は、機動警備部3課4班班長、エミーナ・ハーヅウェルと、"イルミナス"工作員と考えられる同3課所属隊員、ティル・ベルクラントの2名」
「おい、おいおいおい……こりゃ冗談きついぜ?」
ケイさんから手渡された資料を見て、俺はなんともいえない気分になった。
確かにエミさんはニューマンにしては格闘技能が高めで、いざって時の度胸もある。が……特殊作戦群の俺や情報部の光鬼のような専門職ならともかく、潜入としては門外漢の機動警備部隊員。海千山千な"イルミナス"相手に、潜入捜査ズブのシロートが立ち回るなんざ無茶を通り越して最早無謀。わざわざ殺されに行くようなもんだ。なんだってエミさんはそんな危険な行動を?
それに、この工作員って話のティルって娘は……。
こっちの気配を察したか、ケイさんがその端正な顔に苦笑を浮かべる。
「わかってるわ。言いたい事も聞きたい事も山程あるでしょうけど……どうにも複雑な事情があってね、詳細は今口外するわけには行かない」
「ワケあり、って事か」
「そういう事。ともかくエミちゃんとティル・ベルクラントの二人を無事救出し、帰還するのが今回のミッションの概要よ。
当然こっちの動きを察知した奴らが妨害してくる可能性があるし、それを自力で排除する必要がある……こんな任務、実力派の貴方達位にしか頼めないのよ。
それに、貴方を指名したのは今パルム復興業務で身動きが取れないハーヅウェル支部長の望みでもある」
苦渋の表情を浮かべる目の前のケイさんや、身動き取れない中最大限の行動を起こしたウィル支部長の決断を思い、"鴉の淑女"や"教授"も人間なのだと妙に納得しほっとした自分が恥ずかしくなり、ごまかし気味に盛大にため息を吐いた俺は一つ頷く事で答えとした。
「――ただでさえ俺達は表でも裏でも"イルミナス"にさんざ煮え湯を飲まされてきた。
その尻尾を掴める上、更には知り合いの命も掛かってるとあっちゃ、断る理由は無いよ」
「そう言ってくれると助かるわ。
機動警備部からは3課1班のノラちゃんが向かう事になってる。そっちの人選は貴方に一任するけど、あまり大規模にして奴らに察知されたくない。更に事態が既に流動的である以上、できる限り緊急で頼むわ。経路や集合場所のデータについては逐次送る。ほかに何か質問は?」
ふむ。
ノラさんがサポートについてくれる、か。
エミさんの古くからのフレで、何かと組む事も多い彼女。何より今回は引き際を心得てるはずのエミさんが敢えて危険を冒してまで首を突っ込んだヤマだ。
何かあったらと気が気じゃないんだろう。
「いや、十分だ。
こっちからは俺と副長のソフィアで当たる。ソフィアはノラさんも知ってるからやりやすいだろう」
「了解。幸運を祈るわ」
「……神頼みってのは、最後の最期までやり切ってから頼むもんさ。アンタもそうだろ?」
「ふふ。ではこう言っておくわ。"ベストを尽くせ"って」
「了解した、"レディ・レイヴン"。
……託されたからには全力でやろう。現場は任せろ」