Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point











「くはっ、あうっ……はっ、はっ……!」

真っ二つに叩き割られた490を置いて、僕はエミーナへ駆け寄ろうとして、膝をつく。
心臓は破れんばかりに鼓動を繰り返しているのに、全身には冷たい汗でぬめっていて。
肺は空気を求め、視界は二重三重にぶれ、吐き気も酷く、身体は鉛のように重い。
490との限界を超えた戦闘は、僕の身体内部へ深刻なダメージを負わせるに十分だったのだ。

「かはッ……仇は、取ったよ」

それでも這いずるように近寄り、彼女の身体を抱き上げる。
でも、エミーナは……目を開かない。
……様子が、変だ。

「……エミ?エミーナっ?!」

呼んでみても、揺さぶってみても、……彼女の瞳は開かなかった。
よく見てみれば、その顔からは血の気が引いていて、腕も力なく垂れ下がっていて。
さっきまで暖かかったエミーナの体が、ゆっくりと冷えていく。……血を失いすぎたんだ。
でも……
どうすることもできない。
救急キット……なんてそんなもの都合よくあるわけがない。
肉体賦活剤は確かに肉体の治癒力を高めるけど、致命的な傷を即塞ぐなんて事は出来ないのだ。

「やだ……嫌だよ……」

こんなのって、ないよ。
やっと、自分を――家族を、取り戻せたのに。
こんな事で、またお別れだなんて。

「目を、覚ましてよ……エミーナ。
 君とはまだ……話したいことがいっぱい……いっぱいあるんだ。
 一人は、もう嫌だよ……。
 僕を……見て……。また、僕に笑いかけてよぉ……!」

冷たくなっていく左手を、自らの胸元に引き寄せる。
戻っておいでと。
暖めるように、呼び寄せるように。

(何が、"氷の仮面"だよ……そんなもの、何の、役にも……ッ!)

今の僕は、一人の人の命すら救えない、ちっぽけな存在だった。
ただエミーナの傷ついた身体を抱きしめることしかできない自分に。
何も、彼女に返せない自分にやるせない思いを感じて。
いつしかボクの空っぽだったココロは、人を想うが故の怒りに支配されていた。

「何故君が傷つかなきゃいけない?!何故君が…斃れなきゃいけない…ッ?!」

運悪く、いつの間にか降り出した雨は、エミの流した血と、僕の涙と…戦いの後を洗い流し。
やがて、視界全てを灰色に染めあげていく。
まるでそれは、世界がエミーナという存在を消し去ろうとしている様で。
そして――不意に小さく息を吐いたエミの呼吸が、止まった。

「えみ……な……? ……くっそぉっ!」

それに抗うように。
僕は無我夢中で、彼女に心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。

「何故、僕がこんな事っ……!」

上辺の言葉が滑り出る……いや、本心では分かってるんだ。
死なせたくない。
命の灯を消してなるものか。
僕を見て欲しくて。また僕に微笑んで欲しくて。
まだ、伝えなきゃいけない事だって沢山あるんだ。
こんな所で、君だけがこの世界から退場だなんて赦さない。
君に約束を果たしてもらうまで、僕は――!

「動け……!動いてくれ!!
 生きてくれ、エミーナ!……姉さんッ!!!」






 







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