epilogue...
Cross Point





 



 

『そ、そこまで!勝者……エミーナ・ハーヅウェル!!』

軽い右わき腹への衝撃。
エミーナもろとも、崩れるように床へと倒れ込む。
2人分の、心臓の鼓動と、燃えるように熱く、汗にまみれたお互いの身体、髪の匂い。
今感じられるのは、それだけだった。

(僕は……)

そっか、負けちゃった、か。
胸元に倒れ込んだエミーナを見て、理解する。負けたのに不思議と――不満も、怒りも全く沸いてはこなかった。
全力を出し切ったから?言いたいことを言い合えたから?

(たぶん、それだけじゃなくて……)

「エミーナ……お疲れ、さま」
「……わっ!?」

今更、驚いたような。そんな顔をする彼女がおかしくて。愛おしくて。
ぎゅっ、と抱きしめる。
大きく開いていた穴が、綺麗に埋められたかのような。そんな充足感が僕を満たしていく。

「あ、あのっ……」

僕の胸元に、頭を挟み込んでるようにもたれていた事にようやく気が付いて、慌てて離れようとする彼女を。
ちょっと悪戯心が出て、逃がすものかと少しだけ腕に力を籠める。
もぞもぞと何度か身動きして。やがて彼女は観念したのか、顔だけこちらに向けて眉根を下げた、ちょっと困ったような表情で見上げてくる。

「僕の、負けだ」

さばさばとした気持ちで、僕は彼女にだけ聴こえるように小さく呟く。

「やられたよ……まさか、あんな戦法を取ってくるなんて」
「……それ位しなきゃ、キミには勝てなかった」

小さく吐息して、肩の荷が下りたとでも言う様に。エミーナは小さく苦笑する。

「それでも、勝ちは勝ちだ。賭けた内容は……」
「ボクが勝ったら、ボクと一緒に一日付き合う。キミが勝ったら、大切な物を一日自分の物にする――だったっけ」
「うん。でも、僕の賭けた内容も……今叶ったかもしれない」
「えっ?それって、どういう……」
「ん……ッ」
「?!」

もう、大切な物は手に入っていたんだ。一日と言わずに、いつでも手に届くところに。
でも、それは僕一人では守り切れるものではないから。
彼女と――君と共に守る、と。
その想いを込めて、一瞬だけ。彼女の唇に唇で触れる。

「か、勘違いするな?これは、――そう、誓いのキスだ」
「……誓、い?」
「僕が……君を認めた証。君と共に、生きて、往く。その為の誓いだ」
「……」

驚いた表情を浮かべたエミーナは、納得してくれたように、一つ頷きを返してくれる。
これで――僕らは一歩目を、踏み出せたのだろうか。

「エミーナ?」
「……うん、ありがと……ルシーダ」

何だかおかしくって。微笑み合って、自然とお互いの距離が近づく。
もう一度触れたエミーナの唇は、暖かくて、柔らかだった。
















 







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