ガチャガチャ。
どこかで何か物音がする。
「おかしいなぁ、このキーで開くはずなんだけど……」
「ほんとにそれ合い鍵なの?」
「む、直々にオレにご主人が渡してくれたんだから!」
騒がしぃ、なぁ……。
目を開き、何処となくぼんやりとしたまま周りを見回す。
自宅のリビング。
カーテンの隙間から朝日が射し込んでいる。
「朝、かぁ……ふあぁ」
違うのは……。
ソファの上で布団を掛けたウィルが、誰にも見せないような表情で眠ってるって事と――。
ボクの心が、こんなにも穏やかな事。
この間とは全く違うぽかぽかと暖かい気持ちのままに、ボクは自然と小さく微笑んだ。
(あぁ……。こんな気持ち、久しぶりかも……)
愛し、愛されて。溺れるままの一夜を過ごして、そのまま眠ってしまっていたようだ。
時計を見れば、朝7時。
昼までちょっと時間があるのを確認して、タオルケットを身体に巻き付け、ホットミルクでも作ってあげようとリビングを出た所で……。
「「ひぇ……?」」
奇妙な悲鳴がユニゾンした。
ふと見れば、そこにはフィグとシンクの姿が。
あれ、いつの間に……?
「……二人ともぉはよ、ふあぁ」
「ご、ごしゅ、ご主人?」
「え……エミ……ぇ?」
とある一点に視線が定まりそうになり、慌てて下に向ける二人。
なんか、行動がそっくりで姉妹みたいだ。
「え、エミっ、もしかして……」
「ウィル……さんと?」
ぽそぽそと聞いてくる二人に、ボクはまだぼんやりとしたままで微笑む。
「うん?あぁ……優しかったし、キモチヨカッタ、よ?」
一瞬の間の後。
「「えぇぇぇええーーーーっ!?」」
……その後が大変だった。
フィグは「家出だ、家出してやるぅぅ!!」って飛び出して行っちゃうし、シンクは真っ白に燃え尽きるし。
幾ら寝ぼけてたとはいえ、緩みすぎだよね、ボク……。
「んで、どうするんだ……?」
「どうしよぅ、ねぇ?」
まだうんうん唸ってるシンクをベッドに寝かせて、今度はボクらが途方に暮れる番だった。
いや、途方にくれていたのは……正確には、ボクだけだった。
やれやれと、溜息混じりに彼は。
「まぁ、これで連絡は必要なくなった、な」
「ぇ……?」
「俺らが付き合ってる、って事をさ」
何かを振り切ったような、そんな表情でボクの頭をぽんぽん、と軽く撫でた。
"付き合う"前と、何ら変わらないその仕草。
あれ程嫌だったその行為が、今は凄く落ち着くのは……ボクの気持ちの変化か、それとも―。
「そっか……ボクら、付き合ってるんだ……」
「おいおい……」
「あ、そういう意味じゃなくて。
なんか、恋人って感じじゃなくて……大切な人で、大好きな人で…なんか、違うんだよ」
「その答を……これから、二人でゆっくり探していけばいいさ」
義理の兄妹なのに、お互いを求め合っていて、身体すら重ねて…。
それは、世間一般ではタブーと言うのかもしれない。
けれどボクら二人の間では、身体を重ねた今でも、根本的な事は何も変わっちゃいない。
そう、何も。
ボクは、ウィルが好きで。
ウィルは……ボクの事を好きでいてくれる。
こんなに単純で、簡単な……「好き」というコトを、口に出せる様になるのにだいぶ掛かってしまったけれど。
「うん。改めて、よろしくね……ウィル」
「あぁ、こちらこそだ。エミーナ」
微笑んで、お互いがそう言えるなら……それは、きっと正しい事なんだって思うから。
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