『――えーと。
それでは、これより模擬戦闘訓練を行います。
相対者は機動警備部3課4班班長、エミーナ・ハーヅウェルと、同班所属隊員、ティル・ベルクラント。
時間無制限の一本勝負、武装は訓練用の弱装模擬武装を使用。実戦に近い形式で行いますがあくまで訓練の為、危険行為は反則と見なし、その時点で即刻中断とします……』
クライズ・シティの一角、ガーディアンズ訓練施設の中にあるVR訓練区域。カレやんが読み上げる説明が響く中、ボクは淡々と待機部屋でウォームアップを行っていた。
あの時、邪魔されてしまったルシーダとの一騎討ち。それが別の形でこんな風に叶ったのは、不幸なのだろうか、それとも幸運なのだろうか。
(どうなんだろ……)
あの子は、これはボクと向き合うのに必要な事だと言った。
(……不器用だからこそ、ぶつかるしかない、か)
それはボクとて同じだ。不器用で、臆病で。悩みを勝手に貯め込んで、爆発するまで他人に助けを求められない、弱い存在。
(似てるからこそ、分かり合える事もあるよね)
うん、と一つ頷いて屈伸の姿勢から踵を蹴り上げ、跳ねるように立ち上がる。ゆっくりと部屋を出ようとした所で、空中に個人向けウインドウが表示された。相手は……審判役のカレやんのようだ。
『エミナさん、準備できました?』
「うん。丁度ウォームアップも終わったし、いつでも行けるよ」
『ティルさんも準備出来てるそうでs……ちょ、マk――』
一瞬、画面が揺らぎ、次に出てきたのは――。
「あれ、マコ姐?」
『鯖味噌!あんた、絶対勝ちなさいよ!』
「お、応援してくれるの?」
『あったり前じゃない!トトカルチョもしてるんだし♪ちなみに比率は7対3で鯖味噌有利ね~』
ニコニコ顔でそう言うマコ姐。
前向きに見て、期待されている、という事なんだろう……たぶん。
「えぇっと……ガーディアンズ内で賭け事なんてやってていいんです?」
『バレなきゃいいのよ、エロアラシだって今回の事には一枚噛んでるんだし……って、いっけね。これアフレコだったわ。
まぁ、あたし個人としてもあんたの事応援してるんだから、頑張んなさい!』
言うだけ言って、通信が切れる。
(全く、マコ姐ったら……)
相変わらずのツンデレ発言、マコ姐らしいといえばマコ姐らしいや。お陰で、気負っていた気分も適度にほぐれた。
気力十分、気持ちも落ち着いてる。
「よっし、往こうか!」
パァン、と自分の頬を平手で叩いて、ボクはVR訓練区画へと歩を進めた。ルシーダと、戦いという名の"対話"をする為に。
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