:XDay -30 "アルキダスキモチ" 
 
 
Cross Point



 

「もう、まーたご主人そんな格好で〜」
「ごめんごめん…丁度お風呂入ってたからさ」

頬を掻きつつ、荷物を両腕に抱えた中華風の衣装に身を包んだ、小柄な少女型マシナリの相棒が持つ荷物をひょい、とボクは抱えあげた。

「ちょっ、ご主人っ!す、透けっ…!?」
「そっか、下着着忘れちゃったんだっけ」

顔を赤くして硬直する彼女−GH422、通称Fhig−の脇を通り抜けて、奥の部屋へと歩いていく。

「ただいにゃー」
「ただいまですー」

後から入ってきた二人は、展開に慣れっこだと言わんばかりに、フィグに苦笑い。

「フィグニャ、エミニャのパートナになって何年にゃ…。
 いい加減慣れるにゃ〜」
「や、その…」
「相変わらずフィグさんはウブですねぇ〜。
 まぁ、エミ様の奔放っぷりも凄いとは思いますが…」
「余計なお世話だよ、とっ」

テーブルの上に持っていた袋−食材やらなにやら−を置いたボクは、苦笑しながら後の二人ールームメイトのニューマンの少女、ノラネコとその相棒のGH410の"チィ"に言い返した。

ついこの間起こった、ガーディアンズ・コロニーが文字通り"落ちる"大惨事があってから、惑星間警備会社"ガーディアンズ"は装備が足りない状況に陥っている。
なにより、隊員の寝泊まりできる宿舎が足りなくなった為、本来は一人用の宿舎に二人入れるようにして(PMも含めれば4人か)、急場を凌いでいる状態だ。

ボクは入隊前から親交のあった、旧友のノラと一緒にさせてもらえたので、こうして気を使わずに過ごせているわけだが…。

「ノラ達にゃからいいけど。
 他の人が来て、あまつさえ襲われたらどうするつもりニャ…」

やっぱり苦言を言われてしまった。
ちょっと、反省。

「その時は…相手をはり倒すまでさ。
 でも、ごめん。気をつけるね」

反省、しつつ…。
頭によぎった妄想に、再び躰が熱くなっていくのも、ボクは感じ取ってしまっていた。
…ボクの、馬鹿。



「なんか…すっごく豪勢だね?」
「ふふん、今日は大奮発にゃっ♪」

今夜の調理当番はノラだったのだが。
テーブルの上には、コロニーでは最近なかなか手に入らないハムシーのお刺身が乗っていた。
今の時期、脂がのってて美味しいんだよね、この魚。

「これ、ノラが捌いたの?」
「残念にゃけどそこまでは無理にゃから、チィに手伝ってもらったにゃ〜」
「はい!」

誉めてもらったのが嬉しいのか、にっこりと微笑むチィ。
まぁ確かにこのご時世、魚を裁ける人間はそうはいない。

「ささ、冷めない内にみんなで食べるにゃ♪」
「あ、うん…いただきます」
「「いただきま〜す」」

食べはじめて暫く、唐突にノラが聞いてきた。

「エミニャ、最近…調子悪いのかにゃ?」
「…っ、どうして?悪いとこなんてどこもないよ?」

ノラらしい唐突な指摘に動揺して…でも反射的にそれを隠して強がってしまう。
そんな自分が嫌になりつつ、ボクはノラに苦笑する。

「にゃ、それにゃら、いいけど…。
 辛い事があったら…ノラに相談して欲しいな。せっかくルームメイトなんだし、ね?
 それに、話した方がすっきりする事もあると思うの」
「…」

肯定することも否定することもできず、ボクは苦笑を顔に張り付けて硬直する。
図星だ。
今の纏まらない気持ちを誰かに相談に乗って欲しくて、でも相談する訳にもいかなくて。
ノラが本気で心配してくれているのは分かってたし…いっその事、彼女に全部話してしまえばどんなに楽だろう、とも思ったけれど。
けど…それは。
皆をバラバラにする引き金になりかねないから。

「…ありがとう」

そう言い返すのが精一杯だった。

"ありがとう"。

それは感謝の言葉。
でも、ボクにとっては…拒絶や話題を切り替えるためだけにある言葉なのかもしれない。
そうではないし、そうであって欲しくもない。
なのに…。

「ノラは…」
「にゃ?」
「ノラは…、うぅん。
 何でもないよ、ごちそうさま。美味しかったよ」
「ふにゃ…」

それを問う勇気もなくて。
結局何も言えず、ボクはその場を逃げるように離れることしかできなかった。