:XDay+45 スタート・ライン 
 
 
Cross Point






「それで、エミニャはその勝負受けちゃったのにゃ?」
「うん?…うん、約束だったし。
 それに、実際身体鈍ってたのは確かだし…いい機会かなって」
「うーん、ノラはアブナいと思うのニャ…」
「ちょっと、ノラまで否定する気?」

翌日。
ガーディアンズ・パルム支部のトレーニングルームの一室。
まずは、とランニングから始めたボクの訓練につき合ってくれたノラは、苦笑いで答えた。

「そういう意味じゃないのにゃけど…。
 なんて言ったらいいのか…危険って意味じゃ無いのにゃ。アブナいってだけで…」
「それじゃ同じだよ…」

えーっとぉ…?と言ったまま考え込んでるノラの表情が、なんだかおかしくてボクも思わず苦笑する。

「ノラも心配性だよねぇ…」
「そう言うエミニャは猪突猛進し過ぎにゃ〜…」
「そ、そう?」
「まぁ、そういうトコがエミ姉らしいんだけど…」
「ん?」
「なんでもないにゃ〜。
 そいえば、フィグから聞いたにゃよ?」
「な、何を…?」

ノラがチェシャ猫の様にニヤっと笑う。
いやな予感…。
でも、聞かずにはいられなかった。

「ずばり、エミニャとウィルにゃ、付き合い始めたにゃねっ?」
「え、いや…ボクら義兄妹…、てかフィグの行方わかったの!?」
「行方もなにも…ノラとエミニャの寮でお留守番してるニャ?」
「あの娘はぁ…心配させといてオチがそれかいっ!
 …ありがとね、ノラ」

んもー、今度フィグ連れて帰ったらお仕置き大決定だ。

「気にすんニャ。イイ事も聞けたしぃ〜。
 隠さなくても良いニャよ?誰にも言ってないから」
「うぅ…強引に話元に戻されたぁ…。やっぱりノラには隠し事、出来ないや」
「ふふんっ♪」

言って得意そうに胸を張るノラ。
でも、次の瞬間には、彼女は涙を浮かべた笑みを浮かべていた。

「良く出来ました、エミ姉」
「っ!?」

ふわりと抱きしめられ、頭を撫でられる。
ボクより小柄なのに、包み込まれるような。
懐かしいような、安心するような、そんな暖かさ。

「ずっと…ずぅっと、悩んでたんだもんね。
 想い続けて、苦しんで。でも、ノラは助けられなくて、見てる事しか出来なくて……」
「ぁ、その…」

ボクの気持ちを読んだかの様に、ノラは寂しそうに笑って首を横に振った。

「うぅん、エミ姉のせいじゃないよ?仕方なかったの。
 ノラは傍観者じゃないと、いけないの。
 だって、ノラは…」

その言葉を聞いて…ボクは無性に腹が立った。
ノラは…。
野良猫と名乗る、この小柄な友人は、いつもずっと助けてくれてて、一緒に居てくれてて。
ボクに足りないもの、たくさん持ってて。
かけがえのない友人だと、思ってて…。

「何、言ってるんだよ…!
 ノラは、傍観者なんかじゃない。いつも側にいてくれて、いつも励ましてくれてたじゃないか!」

つい肩をつかんで、ボクはノラに怒鳴っていた。

「…エミ姉」
「ノラは…大事な、大事な仲間だよ!傍観者なんかじゃ、絶対にない。
 もし、ノラが何処かへ行くって言うなら。
 迷惑かもしれないけど、役に立てないかも知れないけど…今度はボクが追っかける。一人になんて、させない」
「うん…やっぱり、エミ姉はエミ姉だ」

浮かべた涙を指で拭って、小さく頷くノラ。

「そりゃ…ボクは、ボクでしかないもの」
「うん、そだね」
「やっと、笑った…。ノラはやっぱり、笑ってた方が可愛いよ?」

本当の事なのに、ノラは照れたような表情をその顔に浮かべる。

「……。
 そゆ事平気で言えるから、エミニャは騎士様って言われるのニャ…」
「ナイト…?なにそれ?」
「いにしえの、国を、人を守る高貴な戦士の通称…らしいにゃ。エミニャにはミーティアより似合ってると思うのにゃ」
「ガーディアン、ってこと?
 ちょ、えぇぇ?ボクはそんな大層な人間じゃ…」
「女性隊員の間で、口も堅いし頼れる姉さんって結構噂になってるのにゃよ〜?」

正直、そんな事言われると困る。
ボクは別に、良い事なんてなんにもしてないし…。

「ふふふ。さ、次は何するにゃ?」

でも―。
自分の事のように喜んでくれるノラの笑顔が見られるなら、それもいいのかな、って思う。

「ん〜…久々にお手合わせ、願えるかな?」
「にゃ♪」

その後、ついお互い本気になった挙げ句、盛大にボロ負けしたのは…ここだけの秘密だ。