「それで、エミニャはその勝負受けちゃったのにゃ?」
「うん?…うん、約束だったし。
それに、実際身体鈍ってたのは確かだし…いい機会かなって」
「うーん、ノラはアブナいと思うのニャ…」
「ちょっと、ノラまで否定する気?」
翌日。
ガーディアンズ・パルム支部のトレーニングルームの一室。
まずは、とランニングから始めたボクの訓練につき合ってくれたノラは、苦笑いで答えた。
「そういう意味じゃないのにゃけど…。
なんて言ったらいいのか…危険って意味じゃ無いのにゃ。アブナいってだけで…」
「それじゃ同じだよ…」
えーっとぉ…?と言ったまま考え込んでるノラの表情が、なんだかおかしくてボクも思わず苦笑する。
「ノラも心配性だよねぇ…」
「そう言うエミニャは猪突猛進し過ぎにゃ〜…」
「そ、そう?」
「まぁ、そういうトコがエミ姉らしいんだけど…」
「ん?」
「なんでもないにゃ〜。
そいえば、フィグから聞いたにゃよ?」
「な、何を…?」
ノラがチェシャ猫の様にニヤっと笑う。
いやな予感…。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ずばり、エミニャとウィルにゃ、付き合い始めたにゃねっ?」
「え、いや…ボクら義兄妹…、てかフィグの行方わかったの!?」
「行方もなにも…ノラとエミニャの寮でお留守番してるニャ?」
「あの娘はぁ…心配させといてオチがそれかいっ!
…ありがとね、ノラ」
んもー、今度フィグ連れて帰ったらお仕置き大決定だ。
「気にすんニャ。イイ事も聞けたしぃ〜。
隠さなくても良いニャよ?誰にも言ってないから」
「うぅ…強引に話元に戻されたぁ…。やっぱりノラには隠し事、出来ないや」
「ふふんっ♪」
言って得意そうに胸を張るノラ。
でも、次の瞬間には、彼女は涙を浮かべた笑みを浮かべていた。
「良く出来ました、エミ姉」
「っ!?」
ふわりと抱きしめられ、頭を撫でられる。
ボクより小柄なのに、包み込まれるような。
懐かしいような、安心するような、そんな暖かさ。
「ずっと…ずぅっと、悩んでたんだもんね。
想い続けて、苦しんで。でも、ノラは助けられなくて、見てる事しか出来なくて……」
「ぁ、その…」
ボクの気持ちを読んだかの様に、ノラは寂しそうに笑って首を横に振った。
「うぅん、エミ姉のせいじゃないよ?仕方なかったの。
ノラは傍観者じゃないと、いけないの。
だって、ノラは…」
その言葉を聞いて…ボクは無性に腹が立った。
ノラは…。
野良猫と名乗る、この小柄な友人は、いつもずっと助けてくれてて、一緒に居てくれてて。
ボクに足りないもの、たくさん持ってて。
かけがえのない友人だと、思ってて…。
「何、言ってるんだよ…!
ノラは、傍観者なんかじゃない。いつも側にいてくれて、いつも励ましてくれてたじゃないか!」
つい肩をつかんで、ボクはノラに怒鳴っていた。
「…エミ姉」
「ノラは…大事な、大事な仲間だよ!傍観者なんかじゃ、絶対にない。
もし、ノラが何処かへ行くって言うなら。
迷惑かもしれないけど、役に立てないかも知れないけど…今度はボクが追っかける。一人になんて、させない」
「うん…やっぱり、エミ姉はエミ姉だ」
浮かべた涙を指で拭って、小さく頷くノラ。
「そりゃ…ボクは、ボクでしかないもの」
「うん、そだね」
「やっと、笑った…。ノラはやっぱり、笑ってた方が可愛いよ?」
本当の事なのに、ノラは照れたような表情をその顔に浮かべる。
「……。
そゆ事平気で言えるから、エミニャは騎士様って言われるのニャ…」
「ナイト…?なにそれ?」
「いにしえの、国を、人を守る高貴な戦士の通称…らしいにゃ。エミニャにはミーティアより似合ってると思うのにゃ」
「ガーディアン、ってこと?
ちょ、えぇぇ?ボクはそんな大層な人間じゃ…」
「女性隊員の間で、口も堅いし頼れる姉さんって結構噂になってるのにゃよ〜?」
正直、そんな事言われると困る。
ボクは別に、良い事なんてなんにもしてないし…。
「ふふふ。さ、次は何するにゃ?」
でも―。
自分の事のように喜んでくれるノラの笑顔が見られるなら、それもいいのかな、って思う。
「ん〜…久々にお手合わせ、願えるかな?」
「にゃ♪」
その後、ついお互い本気になった挙げ句、盛大にボロ負けしたのは…ここだけの秘密だ。
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