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「さぁてと、とりあえず全身の配線はおっけ…後はOSなんだけど〜…」

ほぼ外装の終わった、人間に見間違う程の女性型アンドロイドの全裸の素体を前にして、手元のコンソールを操作しているシンク。

「うぅ〜ん、でも売っちゃうなんてもったいないなぁ…」

立ち上がり、そっとその素体に触れる。
既に予備稼働を開始しているその素体の表面は人肌のように温かい。
短めの蒼い髪、大柄でもなく、小柄でもない身体。そして女性として完璧なラインを備えたその体躯。
今は閉じられた瞳は溶けたような黄金色。
全体的にシャープなイメージだ。

「全く、よくもこんなに可愛くそしてバランス良くできたもんだ。自分の才能が怖いわ〜」

うみゃっと抱きついて、頬にすりすり。

「っと、お邪魔するよ…」
「あきゃっ?!へ、変なことなんてシテマセンヨ?(汗)」
「…何言ってるんだ?組上がったどうか確認しに来たんだけど」

あたふたと素体から離れたシンクは、後ろからひょっこり現れたガレスに振り向いた。

「ん、これだよ〜」

さっと手を振り素体を指し示す彼女。

「…流石に作業が早いな…っておいおい、これって違法じゃないのか?」
「何が?」
「人工皮膚とか…確か、未許可の人工皮膚の使用は禁固刑だっけ…?」

ふ〜ん、と素体の全身を眺めつつ、要所を触ったり突いたりするガレス。

「んっふっふ〜、大丈夫だよ。ウィル先生の所だってイー・フリーナさんがそうでしょ?
 こないだ修理に来てたよ、うちに」

「まぁ、そうなんだが…個人的にはロングヘアの方がよかったな…」
「むぅ、そう言うと思ってたんだけど。
 あいにく頭皮のパーツがコレしかなくってさ…。
 人工皮膚の方はだいじょぶよん、登録書類書くときは騙くらかすから」
「なるほど」
「それに、お手伝いさんなんだから何かと人間っぽい方がいいっしょ?」

ねぇ、とガレスに妙に色っぽい流し目を送るシンク。

「うちを修羅場にする気か?…それはともかく。稼働テストはもう出来てるのか?」
「ううん、ガレス君が来てから試そうと思ってたから」
「早速頼むわ」
「あいあいさ〜、OS実装中だから、コーヒー煎れるから飲んで待ってて…」
「いや、俺がやる…インスタント使ってるのに、君ら姉妹の場合、何故かこれ以上ないってくらい不味くなるんでね。」
「あぅ〜、事実だけに言い返せないのが悔しい〜…」

ははは、と笑ってガレスはカップを取り出しコーヒーを用意する。
実は、ガレスとシンクは同じ大学の同じ学科の学生で、結構長いつきあいなのだ。
彼女の特殊な性癖とガレスがシンクの姉―リオネス―を娶った為、友人以上にはならなかったらしいが…。
コーヒーを飲みながら昔話とこの場に居ない人物を肴に談話を興じつつ、10分後。

「さて、OS実装完了っと。…システム再起動、BIOS動作確認、カーネルVerも新しくしたから大丈夫なはずだよ。
 …起動するね」
「分かった」

実はアンドロイド作成時、ここが一番問題の出やすい所である。
最近は大手の企業体が販売している機種が殆どの為それほど問題はなくなったものの、未だOSとの親和性や部品同士の相性、ましては中古品の寄せ集めとなると設定間違いや配線間違いなどで機体をダメにしてしまう時もある。

ヒュゥゥゥン…という軽いサーボモータの音と共に、素体の…いや、「彼女」の瞳が開かれる。

 



 


 
 
 
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