「でも、40万メセタで1人作成してって…予算的にやっぱり厳しいよねぇ…」
ぷつぷつ呟きながら、シンクの指は恐ろしく速いスピードでなにやらキーボードを操作している。
「仕方ない、あそこに頼ってみようかな…」
ふぅ、と溜息をついて固まった背中の筋をコキコキと伸ばしながら。
シンクは椅子から立ち上がり、着ていた繋ぎを脱ぎ捨てて壁に掛けてあった外出着に袖を通した…。
☆
「…そんなわけで。何か出物ないカナ、親父さん?」
ピンカル自治区の中央、うらぶれたその通りの脇にその店はあった。
「なるべく安くアンドロイドを一体作成したい、か。
機能を最優先に詰め込むはずのお前さんにしては珍しいこったな?」
「ま、ちょ〜っと訳アリでね」
ガハハッと豪快に笑う、中肉中背のこの老人は元軍の技術者だったらしく、あちこちに太いコネがある。
それこそ小さなICパーツからアンドロイドの違法パーツまで、そろわない部品はないと豪語して憚らない。
シンクのような零細企業のアンドロイドチューナーや、ハードそのものを自作しているカスタマーにとっては知らぬ者なき有名な人物なのだ。
その人柄と手腕から、誰が呼んだか「星間時代のマッ○イ爺さん」と呼ばれているとかいないとか。
「…中古で組むとなりゃぁ、微妙に不具合が出るかもしれんが…。
まぁ、パーツはいくつか検討材料がある。見ていくか?」
「さっすが親父さん♪モチ見ますってば」
奥の扉へ案内する老人。
シンクも慣れた手つきでカウンターの中へ入り、彼の後へとついていく。
薄暗い通路を通りながら、老人は迷うことなく一角のスペースへと辿り着く。
「とりあえずボディパーツからなんだが…軍仕様だと値が張るしな…これなんかどうだ?
愛玩用途だから防御面に多少心配があるが…出所が怪しいから、新型でも安くしとくぞ。
家政婦としてつくるなら大して問題もあるまい?」
「ふわぁ…大きくて、ふかふかしてて柔らかそう…」
シンクの瞳がある一点で釘付けになっているのを見て、老人は苦笑を浮かべる。
「…こらこら、お前さんの悪い癖だ。
十分美人なんだから、粉掛ければいくらでもいい男なんざ寄ってくると思うんだがな…?」
「男になんて興味ありませーん!」
彼女のきっぱりした一言に老人はやれやれと首を振る。
「…ったく、筋金入りだなぁ、おい。
まぁいい、何だったら外見はそっち方面で行くか?一部だけメカが露出してるのも興ざめだしな。
…つーか一部メカで一部擬体化されてるなんざ、それこそ本当にセクサドール仕様になっちまわぁ」
「安くできて、かつ外見が満足できるんだから、あたしは構わないよ。むしろ大歓迎♪」
「よぉし、だったら腕はこいつか。こいつも愛玩用…?そのかわり手先は器用だぞ、家政婦ならなお好都合だな」
「ふむむ…(にへら)」
「腰の部分は…これかな、手荒に扱われることも考慮して頑丈にできとる。
なぁに、ちゃんとレストアしとるから安心しろ」
「へ?…手荒って…あぁん、そんなぁ」
赤くなった頬に手を当てふにふにと悶えつつ妄想に浸る彼女を流石に呆れたように見る老人。
「…お前さんの趣味の前に値段と相談しろよ!
ったく、腕はいいんだがその趣味だけは儂には理解できんよ」
「あ、あははっ(汗」
頭をかきかき、帰ってきたシンクは苦笑。
「んで脚部なんだが…なかなか良いのが無くてなぁ。
とりあえず予算に合いそうなヤツだとこれぐらいしかヒットしねぇ」
「…スポーツ用の…擬脚…?」
ちょっと見で構造を言い当てる辺り、彼女の技術力は相当な物らしい。
「おぉ、流石に良く知っとるな。
大戦の後に怪我で足やら腕やら失った元軍人のスポーツ選手向けに開発されたサイバネ擬脚だ。
ちっとばかし値が張るが、そのかわり足の速さやら頑強さでは一級品。
アンドロイドに使用するには少々工夫が必要だが…お前さんの腕なら大したことないか」
老人の苦笑に、シンクは大きな胸を叩いてにっこり微笑む。
「任せて親父さん!これっくらいなら何とかするわ…んで、後は頭か…」
「頭はしっかりしたヤツ使った方がいいぜぇ、古すぎるとCPUなんかも処理落ちするしな。
今時音声コマンドなんてはやらんだろ?」
「ん、身体が安く済みそうだからCPUとかメモリ周りは奢るつもり」
「んじゃこれならどうだ?最近入ったばっかの軍仕様のパーツだ」
「へぇぇ…」
興味津々、という表情を浮かべる彼女に老人は苦笑を深くする。
「さっすが、ジャンクの話となると目の輝きが違うな嬢ちゃん。
実はこれも謎パーツでなぁ、どうも一般的なレイキャシール用じゃないらしいんだ。
良かったらこれも安くしとくぜ?」
「そうだねぇ…人工皮膚つけて〜、システムとか外装とか色々アップデートすれば〜(にへら」
「ま、そういうこいったな。それでOKか?」
「おっけおっけ。んじゃパーツの送付はいつもの所に。お金は後でも良いかな?」
「ま、お前さんだからな。つけといてやるさ」
「さんきゅっ♪」