3rdNight
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―早朝 惑星コーラル 某国首都 湾岸部 コンテナ置き場 某コンテナ内―

 リオネスは自分の身体に掛けられた安物の毛布の強張った感触で目を覚ました。

「…むぅ〜。」

 二日酔い気味の頭でガレスを探そうとして立ち上がった時、リオネスは自分が全裸である事に気が付いた。

「…な…まさか!」

リオネスは、思わず下腹部に手を伸ばし、何もされていないのを確認すると安堵の溜息をつく。
少し落ち着いてから、昨日の事を思い出そうとする。

「…確か、それぞれの生まれ育った環境の愚痴をこぼして、途中からひたすらウィスキーの杯を重ねた所までは覚えてるけど…。その後は…?」

毛布で身を包んだまま、部屋の中を見渡す。
散乱した卓袱台の上にはツマミ代わりに突いた缶詰の残りかすの乗ったペーパーソーサーと、空になったウィスキーの小瓶と大瓶が1本づつ転がっており、ニュースを流していたTVは何時の間にか早朝のバラエティ風ニュース番組を流していた。

「…ガレス?」

自分に毛布を掛けたと思われるガレスの姿を探すが視界に入る場所には彼の姿は見えない事に一抹の不安を感じるリオネス。
思わず、卓袱台の下や冷蔵庫の中、挙句にユニットバスの中も探したが、ガレスの姿は何処にも見当たらなかった。

「何処に行ったのよ、あのバカ!?」
「誰が、バカだ。誰が!?」
「ガ、ガレスゥ!?…あ、あはははっつ。」

後ろに現れたガレスに驚き、思わず笑って誤魔化そうとするリオネス。
ガレスはそれに答えずに担いでいたバックを床の上に置き、卓袱台の上を片付けだした。
卓袱台の上に物がなくなったのを確認すると、バックの中から幾つかの包みを出す。

「…ちょっと、何処に行ってたのよ?」
「今晩の為に必要な物の準備。」

リオネスの問いに簡潔に答えると、その中の一番小さい包みを開き、出てきたカード―偽造IDカード―をリオネスに渡す。

「一応、ファーストネームだけはそのままだから使いやすいとは思う。」

リオネスは机の上のカードを取り、光に透かしたりホログラム照射で浮び上がる人物像を確認する。

「…これって…本物?あたしが知ってる偽造品とは別次元の出来なんだけど?」
「いや、偽物。専門の解析機材があれば一発でわかるよ。但し、警官が持ってる確認用の機材程度なら大丈夫なはずだ。」
「ふーん。リオネス=ボーマン、でいいの?」
「そう、それがそのIDでの君の名前だ。」

そう言うと、ガレスは他の包みを取り出した。今度は、スティック状のユニットで夫々に何かのバーコードが刻まれていた。

「何これ?」
「昨日渡した服に挿入する拡張ユニット。取り敢えずオーガ/パワー++とデビル/バトル、エルフ/アーム++を二つ揃えた。」
「??だから、何よ?」
「教えてやるから、こっちにこ…まだ、服を着てないのか!?」
「え…!!!」


―数分後―

「こっちをむくなよ!」
「言われるまでも無く…。」

 漫画風の大きなタンコブを頭に作ったガレスは、他の包みを開き卓袱台に置く準備をした。

「つまり、あんたがさっき出したユニットはジャケットのスロットに挿入する事で身体機能が強化されるって事?」
「まあ、ナノマシーンがどうのとか内蔵されているメモリのデータがどうのって話を差っ引くとそうなるね。」
「ふーん。…毛布、ありがとう。」
「ん?」
「べ、別に〜?」

ジャケットのスロットにユニットを挿入する音に混じる小さな感謝の言葉が聞こえたが、ガレスはあえて聞こえない振りをした。

「向いていいぞ!」
「へいへい。」

照れ隠しの為にわざと語調を強くするリオネスに苦笑しながら、ガレスは向きを変えた。
服を着たリオネスが憮然とした表情のままガレスを見据える。ガレスはそれを気にする事も無く、机の上にシールド発生装置付グローブと一つのシールド・ユニットを置く。

「?」
「ハンターズで使っているシールド発生装置付グローブと、シールドユニット。俺が昔使ってたシークレット・ギアを使ってくれ。」
「こんなんで役に立つの?」

そういいながらシールド発生装置付グローブとシールドユニットを装着するリオネス。

「試す?」
「へ?」

次の瞬間、ガレスは中身の入っていない箱―先程までシークレット・ギアが入っていた箱―をリオネスに投げた。
思わず、防御姿勢をとるリオネスの前にシールドスクリーン防御障壁が展開して、箱をガレスの手元に弾き返した。

「…な!?」
「とまあ、これくらいの事は出来るし、使い手によってはフォトン・ランチャーの直撃も凌ぐって話だ。」

そう笑いながらリオネスにウィンクすると、ガレスは次の包みの中を卓袱台の上に置いた。

「…ちょと、幾つあるのよ。」

次から次へと出てくる包みに思わずリオネスが突っ込みを入れる。

 「次は、こいつだ。」

『またか…。』と言う表情のリオネスがゆっくりと驚愕の表情になる。

「な、何?この動物?」
「『マグ』ていうんだ。ハンターズに正規登録された時に渡される、AI搭載の生体防具の一種さ。」

 そう言うガレスの周りを、蠍のような1体のマグ―ニドラ―が久しぶりに飼主に会った犬の様に、嬉しそうにグルグル回った。ガレスは別の包みに入れていたスターアトマイザーを取り出すと、惜しげなくニドラに手ずから食べさせた。

「これって…。」
「うん、意思を持っている。」

ガレスが答えると、ニドラが飼主よろしく"その通り!"と言わんばかりに踏ん反り返る。
その愛らしい格好に二人のどちらとも無く笑みがこぼれた。

「…ニドラ、頼みたい事がある。」

食事を終えたニドラを子犬のように持ち上げると、ガレスはニドラのセンサーアイを見据えた。
飼主の、真剣な表情にさっきまでの浮かれた態度から状況を察したニドラも一瞬、身を引き締めた様にリオネスには見えた。

「今回は…。」

そのままニドラの向きを変えてリオネスの方に向かせる。

「俺じゃなくて、彼女を守って欲しい。」
「ちょ、ちょっと…。」

 リオネスの抗議の声を上げたが、ニドラはガレスの手を離れると、子犬の様にくるくるとリオネスの周りを回ったかと思うと、そこが定位置だと言わんばかりにリオネスの左肩後方に居座った。同時に、リオネスは自分の身体に力が満ち溢れてくる様に感じた。

「そう、こいつらは自らが主人と認めたハンターの所定の位置に滞在した時、主人の能力をサポートするべく機能を発動する。」
「って事は?」
「そいつは、ニドラの中でも主人の筋力と器用さをサポートするように調整されたタイプだ。君が、この包みの中身を使う為には必要だと思ってね。」

そう言うガレスの手元にはさらに幾つかの包みが転がっていた。




 


 
 
3rdNight
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