4thNight
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―数時間後、惑星コーラル ハンターズ・ギルド総本部 地下駐車場―

ケイは軍の士官用の第一種正装―儀礼用―をモデルにしたと言われるハンターズの女性レンジャー用の黒い制服を纏い、脇の下のホルスターに愛銃のブレイバス―小型軽量高精度で知られる名銃―を収めると、バックパックを背負い、女子更衣室を出てエレベータに乗り、地下駐車場へ降りた。
地下駐車場へ通じるエレベータを降りると、一台のエアー・カーが目の前に止まり、そのままドアを開けた。

「遅くなって御免なさい。」
「いえいえ、まだ、予定時間より早い位ですよ。」

ケイの謝罪を、ウィルは軽く返す。ウィルは黒を基調として黄色のワンポイントが入った実用性重視のハンタースーツを纏っており、エアー・カーの後部座席には、武器が入っていると思われるバックパックが置かれていた。
ケイも同じように後部座席に、バックパックを降ろして助手席に座った。

「トランクルームで武器は出してきたの?」
「ええ。ケイさんはまだですか?」
「まさか、そこまで慌てては無いわよ。」
「何を持ってきたんですか?」
「H&S25ジャスティスとアングルフィスト。念の為、ジャスティ-23STも出して来たけど。そう言うあなたは?」
「今回は、ヴァリスタとヤマトにしました。まさか、市街地でラストサバイバーを振り回す訳には行きませんからね。」

そう答えると、ウィルはエアー・カーを車道空間に侵入させ、しばらく走らせると、そのまま、ハイウェーに乗り入れた。二人ともしばらく無言だったが、やがてウィルが口を開いた。

「あの髪の鑑定結果ですが、出たんですか?」
「ええ。昨日、ギルドの鑑定課に依頼を出したのが返って来たんだけど、見る?」
「勿論です。」

ケイはギルドの鑑定課から渡されたディスクを、車載コンピュータのディスク・スロットに挿入した。
しばらくするとエアー・カーの車載モニタに映し出された道路交通情報表示の隣に、昨日現場から回収できた髪の毛の鑑定結果が表示される。

「…毛髪の持ち主は某国首都スラム街を拠点にするストリートギャング"ナイト・オウル"幹部 リオネス=ディキアラ、ニューマンの女性で年齢は19、幾つかの犯罪への関与容疑で指名手配中…。」
「一体どんなヤマ引き受けたのよ、あの子は?そもそも、依頼人は誰よ!?」

 いきりたつケイを横に、ウィルは努めて冷静に口を開いた。

「残念な事に依頼人はハンターズ条例第23条4項を盾に…。」
「確か、依頼人の利益とプライバシーの保護の話だっけ?」
「ええ。依頼人には会わせて貰えないようです。代りに、ギルドからこれを渡されました。」

ウィルが別のディスクに入れ替えて、しばらくするとエア・カーの車載モニタの表示に、今度はガレスのサインが記入された契約書が表示された。

「依頼人は"不明"扱い。報酬金が5万メセタ。…クサいわね。」
「そうですね。内容は"某国首都スラム街で販売が確認されたYrE-504、別名"アナザドライブ"の情報の真偽の確認と―」

ウィルの声が心無し上ずったようにケイは聞こえたがあえて無言のまま話を聞く事にした。

「―原因の究明―可能なら処理。」

そこまで言うとウィルは憮然とした表情で押し黙った。

「"処理"ねえ。」

ケイ自身、ドラッグについてはあまりいい印象は無い。軍隊時代には戦場で薬物強化された強化人間と戦った事もあるし、ハンターズになってからもドラッグ取引の摘発の手伝いを行った事もある。
が、ウィルの憮然とした表情には尋常ではない何かがある、とケイは感じ取ったが敢えて聞かなかった。代りに現実的な別の事を聞く事にした。

「問題は、今あの子がどこにいるか、て事ね。」
「ええ、そうですね。…ケイさんならどうします?仕事を依頼され、関係者を確保したのはいいけど、組織化された敵に追撃を受けてる時は?」
「あたしなら…そうね、幾つかある隠れ家を渡り歩いて反撃のチャンスを待つか…。」
「か?」
「可能な限りの知り合いに声を掛けてこっちも組織化して反撃に移るわ…。そう言うあなたはどうするの?」
「私ですか?…そうですねえ。…家にはアムもイー・フリーナもいますから、へたに帰る事は出来ませんので、しばらくどこかの山奥にでも逃げ込みますね。」
「…そうよね。逃げの一手から反撃のチャンスを窺うわね。となると…。」
「どこかに潜伏している!?」
「そう考えるのが筋でしょうね…。ウィル、腕利きのハッカーって知り合いにいない?あたしの知っているハッカーはあの子だし…。」
「居ない訳じゃないですけど、何をさせるんです?」
「あの子の銀行の口座を洗い出して、変な流れがあればそれを辿っていって、隠れ家を割り出すのよ。あの子、結構ヌケてる所あるから自分の口座のまま、隠れ家を借りているかも知れないからそれでわかるかも。」
「確かに…大学のテストの際も細かいスペルミスとかやってますからね。…判りました、イー・フリーナに調べてもらいます。」
「…よろしく頼むわ。しかし、お互い出来の悪い弟子を持つと…。」
「苦労しますね。」

ケイの言葉をそのままウィルが引き継ぎ、二人はおもむろに顔を見合わせ笑い出した。



 


 
 
4thNight
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