4thNight
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―同時刻、惑星コーラル 某国首都郊外 ラブ・ホテル"ジョウス・ガード"402号室―

「ふぇっくちん!」
「…風邪でもひいたの?」
「いや、厭な悪寒が…。」

ガレスは思わず自分の両肩を抱きしめたが、しばらくすると何事も無かったように担いでいたバックとトランクを降ろした。
共に行動していたリオネスもそれに習う。

「…重たかった…。ガレス、あんた、これに何を入れてんのよ?」
「…今晩の祭の支度。」

そう言うとガレスはバックの中から情報端末とスティック状の機材を取り出し、接続すると、部屋の中を探るようにスティック状の機材を振り回し始めた。変な物を見るような目つきでガレスを見るリオネス。

「…ガレス…。」
「何?」
「…ひょっとして、熱無い?」

一瞬、コケそうになるガレス。

「何でそうなる!」
「だって、悪寒を感じたって言ったし、今だって何か奇妙な踊りを…。うわっぷ!?」

リオネスの突っ込みに側に置いていた枕を投げつけるガレス。

「これは、盗聴と盗映対策!今、センサーで確認取ってるの!」
「…それを先に言いなさいよ。どう見ても頭に何かわいて、踊っているようにしか見えないわよ。」
「そこまで言うか?」

 笑みを浮かべながらそう答えつつ、ガレスは手を動かして、そのまま風呂場等もチェックを行う。
リオネスは自分のやれる事が無い事を悟り、ふと目についた電気ポットを使ってお茶を入れるとガレスが戻ってくるのを待った。
しばらくすると、ガレスは機材を情報端末から取り外してリオネスが座っているサイドテーブル横の椅子ではなく、ダブルベットの方に座りこんだ。リオネスは、グリーンティを入れたプラスティックカップをガレスに渡しながら話し掛けた。

「どうだった?」
「確認が取れた範囲では無いと踏んでいい。 しばらくは休んでおける。…お茶、ありがとう。」
「…そ、そりゃどうも。」

照れたように不器用なリオネスの返答に苦笑しながらも、ガレスはお茶を啜り、頭の中で次に何をするべきかを考え込んだ。
(さて、これからどうする、ガレス?打てる手は打ったが、不確定要素が多すぎるぞ。
"レディ・レイブン"や"プロフェッサー"が聞いたら"作戦に穴が有り過ぎ"とか"綱渡りでもするのか"って突っ込まれるな。)
お茶の蒸気を顎に当てながらガレスは思考の迷路を彷徨っていた。が、リオネスの声が現実に引き戻した。

「ガレス…。」
「ん?何?」
「…ガレス、あんた、怖くないの?…喧嘩馴れしたあたし達ストリートギャングが束になっても勝てなかったあの二人と、ストリートギャングの一団を敵に廻して…。」
「…怖いよ。だから、隠れ家からこんな場末のラブホテルに移動して次の手を打つべき時間を待っている。」
「…!!」

ガレスのしれっとした告白に、思わずガレスの顔を見入ったリオネスは絶句した。
そこには、今までのどこか飄々とした笑みを浮かべていた策士のそれではなく、苦悩と恐怖に耐えている表情をした年相応の少年がいた。

「この業界に足を突っ込んで2年近くになるけど、恐怖を感じなかった事なんかないよ。けど…。」
「けど!?」
「…こんなに怖くて堪らないのは久しぶりだ。
 特に、あのマンションの惨状をニュースで見てからはいつ、あの二人が来るかと思うと…ほら。」

そこまで語るとガレスは微妙に震えている脚を指さした。

「特に、君の証言や俺のネットワーク情報網で、相手側のハンターズが誰か、ある程度判って来た事で今回ばかりは仕事を受けた事を後悔しているよ…。」

そう告げると、ガレスは情報端末を起動した。幾つかのキーを叩くと荒いホログラム映像に一人の男の姿が浮び上がる。

「あ、こいつ!」
「本名不詳、ハンドル通り名は"ファントム"として知られる腕利きのレンジャー。
 一応ハンターズに登録はされているが…黒い噂が絶えない男だ。」
「噂って!?」
「噂じゃあ、ブラックペーパーと繋がりがある、って話だ。」
「ブラックペーパーって…あの!」
「裏じゃあ武器密売組織として有名な組織だな。」

そこまで言うと、ガレスは自らを落ち着かせるべくお茶を飲んだ。

(兄貴は、俺が政府のブラックオペレーションチームと事を起こしているのを知ったらどんな顔をするだろう?)

声を漏らさない様に自嘲しながら、ガレスはもう一つの画像を立ち上げた。

「もう一人は、ハンターズにも登録されていないアンドロイド…。
 ベースはグラン=テクノス系ダグラス・ヒューイ社製近接戦タイプのCA-178だろう。
 情報がまったく無い、が君の話通りなら相当の強者だな…。」
「…ええ、こいつよ。」

ガレスは、リオネスの声に言い様の無い悔しさと憎しみが込められていたのに気付き自分の臆病さを恥じた。
小刻みに震えている脚に力を入れて震えを押さえつける。

「…すまない、…みっともなくて。…まったく俺は…。」

リオネスの顔を見ずに小さい声でガレスは呟いたが、リオネスはそれを聞き逃さなかった。
かぶりを振り、そっとガレスの肩に寄り添うリオネス。

「…そんな事、ない、よ。」

驚きと困惑の表情を浮かべたガレスの肩に額をこつんと当て、リオネスは喋り出した。
その身体が少し震えているのに気付き、リオネスの身体に手を廻すガレス。

「あたしも、怖い。…けど、逃げたくない…。」
「…リオネス…。」
「…何よ?」
「…君の勇気を分けてくれないかな?」
「…そんな物でよかったら…。」

頬を上気させ瞳を潤ませたリオネスの顔を見入ったガレスは、そのままリオネスの唇を奪った。
リオネスは抵抗せず受け入れ、しばらくお互いの唇を貪る。
数秒間、沈黙が過ぎた後、どちらからともなく唇を離す二人。

「…続きは還ってからって事でどう?」
「…そうだね、お互いに生きて還ってから考えよう。」

リオネスの提案に、ガレスはいつもの飄々とした態度に戻って笑い返した。




 


 
 
4thNight
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