6thNight
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―数時間後、"レッド・ナイツ"ドラッグ保管庫―

 ファントムは始め、自分の情報端末の表示を疑った。廃ビル―"レッド・ナイツ"ドラッグ保管庫―に派遣した1個小隊相当のアンドロイド―16機―が全て消息を絶ったのである。
仮にも軍用の現行機種をベースに非合法活動用にカスタマイズされたアンドロイドが、ストリート・ギャング風情に遅れを取る事は無く―事実、幾つかの"レッド・ナイツ"の拠点に侵攻したアンドロイドのチームの殆どは、物の数分で拠点の制圧を終え、次の獲物を求めて、別の拠点の制圧に向かっている。

 が、問題の廃ビル―"レッド・ナイツ"ドラッグ保管庫―に派遣したアンドロイドのチームは、最初に突入したチームこそ"レッド・ナイツ"の構成員との戦闘―と言うにはあまりに一方的な虐殺―を行っていたが、突入開始から数分後に、突然、定期的に発信しているパルス信号が途絶したのである。
 パルス信号が途絶した際には他のチームを派遣して状況を確認。抵抗勢力がある場合には、兵力を投入して確実に証拠の隠滅を行わなければならない。その為に、近隣で作戦活動を終了した別のチームを突入させたのである。

 が、突入した別のチームも同じように突入してものの数分で通信を途絶したのである。
 幸い、後発の突入チームは先行したチームの残骸を確認したが、その残骸の殆どが、爆発物による損傷―しかも、自重の重いアンドロイドに取って致命的な下半身の間接部と、センサーや通信機能が集中している頭部に損傷が集中している―と確認できた。そして、後発の突入チームのアンドロイド達が、先行したチームの残骸の精密な調査を行おうとした瞬間、爆音と共にリアルタイムで中継されていた映像が途切れてしまったのである。

―ストリート・ギャング以外に潜入した奴がいる。しかも、ブービー・トラップの達人で爆発物の取り扱いに長けている。―

ファントムは手口から相手がプロである事を確信し、自ら廃ビルに赴く事にした。


 ガレスは、バックパックから最後のプラスティック爆弾の包みを出し、電設信管とセンサー、釘の入った袋を取り付けると、扉の上に取り付けた。

 「これが最後か…。」

 目的の"アナザ・ドライブ"のコンテナ自身に仕掛けた焼夷系の爆弾のセットと、"レッド・ナイツ"のドラッグの帳簿データのインストールされたパソコンの発見までは予想以上のスピードで話が進んだ。
 しかし、パソコンがスタンドアローンで外部ネットワークへの編入がされていない事が計画を狂わせた。
 ガレスは止む得ず、パソコンの解体を始めたが、タイミングを測った様にアンドロイド達とギャング達の戦闘が始まったのである。
 幸い、ドラッグ保管室までの道すがら、(逃走用に)あちこちに爆発物を用いたトラップの設置を行っていた為、ドラッグ保管室まで進行してきたアンドロイド達を粉砕する事が出来たが、逃走用の仕掛けが無くなったので、予備の爆発物も用いて、粉砕したアンドロイド達の残骸に爆発物をセットしたのである。
が、これも、再度、突入してきたアンドロイド達が物の見事に引っかかり、次に突入された際の備えは、今、扉の上に取り付けたプラスティック爆弾が最後であった。

 「さて、と。ちゃっちゃっとバラしますか。」

 自分の使っていたパソコンと違って、規定の解体方法を踏まなければハードディスクをフォーマットする―もっとも、本業のデータ発掘屋が本気になれば1、2日で解析されるだろう―ようなトラップや爆発等の気配は無かったが、時間が掛かるのは判っていた。が、自らもハッカーであるガレスはデータの吸出しを行うのではなく、物理的な方法―ハードディスクを物理的に回収する―でデータを回収する事にした。これは、得体の知れないプログラムを、隔離できない状態で自分の情報端末付シールド発生装置に保存しておきたくない、ハッカーとしての生理的な考えでもあった。

―数分後、"レッド・ナイツ"本拠地―

 ―ガキンッ―
 鈍い音と共に、リオネスの手に握られていたブリューナクの柄がヘシ曲がった。

「…いい加減に沈めっ!」

今までの酷使に続き、目の前のヒューキャストが繰り出した斬撃でフォトンの収束が出来なくなったブリューナクを捨て、腰の刀―偽アギト―を抜き放つとリオネスはヒューキャストの懐に飛び込んだ。なまじブレイカーを振り回していたヒューキャストは、リオネスの急襲を防ぎきれず、胴体に致命傷を負い、そのまま崩れ落ちた。

「ふうっ。」

リオネスは、肩で荒い息をしながら、ヒューキャストの胴体にめり込んでいる偽アギトを引き抜く。偽物とはいえ、名工テンガイが鍛錬した日本刀は使い手の期待に応え続けていた。そして、リオネスの足元には3体のアンドロイドが既に物言わぬ残骸と化して転がっていた。
無論、リオネスも身体中に大小問わぬ打ち身や裂傷があるが、数分前に無針注射器で皮下摂取したトリメイトの主成分である沈静剤の成分で、痛みを無視して立っている事が出来る。傷の方ももう一つの主成分であるナノ・マシーンが、確実に修復してくれる。

「この向こうにあいつ等が…。」

暗い情念に後押しされるかのように、廃ビルの通路を踏みしめながら歩を進めるリオネスと―その情念におっかなびっくりしながらついて回っている―ニドラ。
やがて、"レッド・ナイツ"の首領の部屋の扉に辿り着いたリオネスは、渾身の力で扉を蹴り開けた。

"L"は大剣―フロウウェンの大剣―の剣先を床に向けたまま、ニューマン―リオネス―が扉を蹴破って入室して来たのを静かに感じ取った。
彼女の潜入に気が付いたのは、エアー・カーの警備についていたアンドロイドからの定時通信が途絶した時であった。すでにビルの制圧を終え、後は撤収の時を待つばかりの"L"は、当初こそアンドロイド数体を差向ければすぐにでも制圧できる、と思っていたが、その数体を怪我まみれになりながらも打ち倒してきた彼女に興味を持った"L"は、敢えて指揮下のアンドロイドを下がらせて、自ら迎え撃つ事にした。

「殺しに来たわ!"レッドナイツ"首領…」

リオネスの視線はある一点―血塗れの骸になって転がっている"レッドナイツ"首領―を捕らえ、口上が止まってしまった。

「…死にに来たか、小娘。」

目の前のアンドロイド―"L"―は殊更、感情を押えた口調でリオネスに話し掛けた。その威圧感にリオネスは一瞬身を振るわせたが、偽アギトの切っ先を"L"に向けて啖呵を切った。

「…あんた!…雇い主を裏切るとは、ギャングにも劣るわね!ブラック・ペーパーの飼い犬!」
「いや、私は"レッド・ナイツ"に雇われた訳ではない。ついでに言えば、これも予定通りの行動なのだよ。」

 リオネスの挑発に静かに答えると、"L"は初めてリオネスの方に向き直った。

「そもそも、我々が何故、場末のストリートギャングと手を組んだと思う!?我々は、この星中のストリートギャングが束になっても敵わない程に巨大な組織だ…。」
「じゃあ、何故、"レッド・ナイツ"と手を組んだ!?」
「…その答えが知りたいか!?」

 "L"からゆっくりとだが、確実な殺意が現れ始めたが、リオネスは引く気は無かった。ゆっくり、偽アギトを握り直し、唇を嘗める。

「…ええ、力ずくでも聞かせてもらうわよ!」
「自分の実力も考えずに答えを決めた事を後悔するなよ、小娘。」
「上等!」

―次の瞬間、二つの殺気が交差した。―




 


 
 
6thNight
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