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ファイル1:再起動/リブート





深海のように深く蒼い空間で、外界よりもずっと強い光源が僕の体だけを照らしている。

一方で僕の意識は眼球を通すことなく、自身から1mほど離れた位置から肉体を入念にチェックしていた。
男としては白く華奢な肉体。
筋量に至ってはアークスの基準から最低値。
175cmの身長はアークスの男としては平均値より若干下。
総じて、美麗なニューマンといえる。
他者と違う特徴といえるのはミントブルーの髪くらいのものだ。

いずれも僕にとっては都合が良かった。
理由は簡単、どんな装束でも似合うためだ。それこそ女装だって自然にできる。

アークスになった理由の半分が「カッコつけたい」自分にとって、装束の選択肢の量は重要極まりない。
とはいえ、今日は女装の気分ではない。明確に、なりたいイメージがあった。


エステに入る前に倉庫から持ち出していたコスチュームは『ブリッツエース』。
半ズボンの上にダブついたズボンを掛け合わせ、各所に多層装甲を組み込んだものだ。
若年層に人気を集めている、らしいがこいつを着てるやつはまるで見かけない。
少なくとも今は僕だけだ。

個人的には半ズボンとダブついたズボンの間に肌がチラチラ見える部分をどう処理するかでこのコスチュームの評価は分かれる。
こいつをデザインした奴は、男の絶対領域を見極めようとしてたのだろうか? 愚痴をこぼしながら肌を隠す全身タイツを設定。
タイツには骸骨ペイントが描かれているが、ブリッツエースがほとんど覆うためにさほど気にはならない。
僕としては早くただ黒いだけのタイツを実装してほしいが、無いものは仕方がなかった。


コスチューム、ボディペイント、と来て、見た目のイメージを調整するためにアクセを配置する。
ハチガネのようなヘッドセット、ゴーグル、それから首に真っ赤なマフラーを巻いた。
気分はサイバーNINJA。

気分は重要だ。
特にイメージでフォトンを操るテクニック使いにとっては。

これから使う武装は僕がいままで使ったことのない法撃武器『ジェットブーツ』。
法撃武器でありながら激しい挙動を使用者に強いるブーツ状の武器である。
ブーツなだけあって未装備状態では足の側面や腰部にマウントされるのだが、その時の見た目を考えると自然に合う服装は限られてくる。
こういう場合は全体のシルエットが三角形に収まるよう調整したほうがいい。

はたして、ジェットブーツに合わせたサイバーNINJAコーデの出来栄えは及第点に見えた。
欲を言えば、髪飾りをもう少し盛りたかったが、アクセ数は3つまでしか登録ができない。
当然だ。アクセもコスチュームも有限のフォトンで構築されている。技術的な意味で容量オーバーは不可能なのだ。

ほんの少しの不満を抱きながら、僕はこの空間から出ていくことを決意する。
思考トリガーによりその決意はエステショップの管理システムに伝達され、ほどなく手続きが行われる。
僕の意識は深海のような空間から、無数の光でできたパイプを通り、現実世界に戻っていった。


 
 

序章...「夢 | |