樹冠からそいつは側転しながら躍り出る。
コーディネート:青いセンシアスコートにクルーンハット。顔には髑髏をペイント。鼻につけた魔女のような鷲鼻がどことなくピエロを連想させる。
武装:ブラウヴィント。青い袖の中にサブマシンガンを仕込む。法撃力を付与された強力なTMG。
「おい、リバー! なんだあれは!?」
「模倣体、要はクローンだ。ダーカーたちがアークスを真似て作るらしい」
「なるほど、彼らもそんなことをするようになったのか。もしかしたらオリジナルが研究データを横流ししたのかもしれないな」
森の中を走りながら話す。頭上から弾丸。僕の足跡が穿たれていく。
「しかし、酔狂な格好をするアークスがいたものだ。右へ避けろ!」
ステップ。左側面で爆炎が広がる。
「ケホッ……、失礼な奴だな! あれは僕のクローンだぞ!」
「君の? あの殺人ピエロが、君なのか? とんだ目立ちたがり屋だったんだな」
「ほっとけ……去年のハロウィンでチームの皆から人気だったから気に入ってたんだよ」
言い合っていると、ピエロが爆炎の中から現れる。
ラ・フォイエを目くらましにして至近距離に降り立ったのだ。
身体が重たい。黒い煙が異様にゆっくりと晴れつつある。メシアタイム:時間操作だ。
ぬるり、と黒い煙を伴って出てきたピエロは、袖に仕込んだTMGを乱射。水飴のような空間を、弾丸が飛んでくる。
(間に合え!)
思考トリガー。
PA:グランヴェイヴを使用すべく意識する。
わずかに間に合わない。
数発の弾丸が身体にめり込んだところで、グランヴェイヴが発動する。
このPAはデッドアプローチやギルティブレイクと同じように移動を伴う。
急接近し、あびせ蹴りを放つというものだ。しかし、今欲しい効果は派生の方。デバンドを発動しながらのバックジャンプだった。
デバンドは防護効果を上昇させるテクニックだが、グランヴェイヴの派生時に一時的に無敵効果をもたらすという効果もある。
僕は乱射するピエロから離れるように大きく宙返り。最初の数発以降の弾丸は肉体をすり抜けていく。
運が良かった。
地表に降り立つ直前にフォトンドリンクを飲んでいなければ助かっていない。
ドリンクを飲むと様々な副次効果があるが、そのうちの一つに怯みにくくなるというものがある。
そうでなければ最初の一発で僕の身体は動きを止め、後の二十数発で蜂の巣にされていただろう。
「逃げるという選択肢はあるのかい?」
ゼンチの質問。答えは決まっている。
「ないな。ここでコイツは倒す。それに丁度いい練習台だ」
僕はガンテクをやめた。
未だMPSEはガンナーを許容しているが、もう半年も保たずSロールJAは威力減衰する。
だから見切りをつけてジェットブーツに手を出した。
むしろガンテクが強い現在のスペックで来てくれたことに感謝をしたいくらいだ。
僕は今、このピエロを倒さなければならない。
僕の決意を知ってか知らずか。
笑みを浮かべたままのピエロは、メシアタイムの挙動を中断し、大きく跳躍。木の枝から枝へ飛び移る。
どうやらまた翻弄するつもりらしい。
「勝算のほうは?」
相手のレベルはGuFo70/70。こちらはBoFo50/70。メインクラス20レベルの開きは大きい。
だけど。
「あるさ!」
もう一度グランヴェイヴ。今度の用途は接近目的。
樹冠にいるピエロにぐん、と近づくが、敵はSロール。横にずれたためにあびせ蹴りがスカる。
木の葉の舞う空中で、ピエロはSロールJAからエルダーリベリオンに繋げた。
僕にはグランヴィヴの派生で逃げるという手もある。
だけど距離を離すとこいつはテクニックを使ってくるに違いない。
ガンテクは至近〜超遠まで距離を選ばず戦闘を継続できる。
僕はつくねとチャコさんの戦いを思い出す。
チャコさんはつくねのエルダーリベリオンを最小限の動きで躱していた。
(ひ、ふ、み、よ、いつ、むー……なの。やの。ここのつ!)
チャコさんのステップと同じでいい。
飛んでくる弾丸に集中。メシアタイムの効力ではなく。集中力によって時が遅くなったかのように錯覚する。
1〜6発は同じタイミングで飛んできた。
ジェットブーツは空中で浮揚したままステップができる。落下することなく地上5mでダンス。
だが、回避をやめれば落下する。そのギリギリで踏みとどまり、タイミングの遅い7〜9発を、焦らされるように待つ。
「なの。やの。ここのつ!」
避けた。僕は追撃に入る。
ピエロは不思議そうに首を傾げてSロールで後退。
きっと、奴は自分の知らない回避法に戸惑ったのだろう。
思考トリガー:視界下方のサブパレットからイル・ゾンデ。
僕の身体が稲妻に変わる。落ちていく木の葉の上を走るようにして、ピエロに肉薄した。
もう逃がさない。チャージの必要はない。一瞬でいい。
ゾンディール。発生したごく狭い磁界が、わずかにピエロの行動を阻害する。
「落ちろっ」
ストライクガストを放つ。縦回転。蹴り上げ。そして派生で地面へと叩きつけた。
一気に5mも落ちて倒れる。さらに通常攻撃で追撃。
いける。畳みかけて倒せる、そう確信する。
吹っ飛んだピエロは受け身を取り、Sロールで距離を置いた。
ピエロがSロールJAをする瞬間、僕も足を延ばす。
これまで森林で原生種を狩ってきてわかったことがある。
意外とブーツの蹴りは射程がある。つま先から出たフォトンが鞭のようにしなる。届く。
しかし、それは相手に軽傷を負わせたが、PAやテクニックの発生を止めるほどの威力はなかった。
「HOHOHO! 燃エツキナ! ナ・フォイエ!」
ピエロが笑った。
ナ・フォイエ:上級テクニック。凝縮された火球が放物線を描いて飛んでくる。
SロールJAはテクニックの威力すら大幅に増幅する。あれを一撃食らえば戦闘不能になるに充分だ。
身体を動かそうとする。だけど動かない。キックをしたのが裏目にでた。
いくらなんでもそう簡単に体勢を立て直すことは出来ず、火球の直撃を受ける。
視界が真っ赤に染まった。
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