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ゼンチが笑いながらそう言う。言い返すことはできなかった。戦闘不能状態で言い訳なんて見苦しいにもほどがある。 『なんだか、戦いにカッコよさだとか、あるいは楽しさみたいなものを求めているじゃないか?』 その通りだ。だって僕がアークスになった理由の半分はそれだ。 チャコさんのように守るべき家族は僕にはいない。 『だって、ゼンチ。カッコよくないと誰にも憧れてもらえないだろ?』 『……なるほど、君はどうしようもない目立ちたがり屋でカッコつけたがりなわけだ』 ゼンチは無いはずの肩を竦め、言葉を続ける。 『とても凡庸だけど少なくとも君は退屈な存在じゃないらしい。なら少しだけ手を貸してやろう』 試算完了、プレゼントだ。そう言って、ゼンチは僕の身体を賦活する。
ピエロは哄笑をあげながら僕をずっと見下していた。 立ち上がる。HPは最大値の半分だ。 「仕切りなおすぞ」 「イイヨォ!」 僕はグランウェイヴの派生で、ピエロはSロールで離れた。彼我の距離15m。 「ゼンチ、さっきのは?」 「マグデバイスの[復活]だ」 「そんなデバイス挿した覚えないぞ」 「腐ってもフォトナーだ。マグに出来る範囲のことならやれるさ」 「……もしかして、何度でもできるか?」 「まさか! 本来は極稀にしかできない効果だぞ? 僕の内在フォトンをかなり食うから、探索一度につき一回までにしてくれ」 確かに、空腹状態になっているようだ。あれだけフランカさんの料理を食べたのに、消化が早い。 「ありがたく頂くとしよう。だけど、いくら食べさせてもらってもあれはそう簡単には使わない」 仕方ない。大体、戦闘不能でもキャンプシップに戻ればいいのだから、わざわざ使う機会も少ないとは思う。 「じゃあ、フォトンブラストはどうなってる?」 「未定だよ。今なら好きな既存のフォトンブラストにできる。変更したらそれでしばらく通すことになる」 オリジナルのように時間操作ができるフォトンブラストになれるか、とちょっと期待したが無理なようだ。 フォトンブラストとは、マグを幻獣に変身させ独自の行動を行わせる、というアークスにとっての必殺技である。 「なら、ケートス・プロイになってくれ」 「いいだろう。ところで、君のコピーは焦れてこっちに来てるぞ」
あのピエロは少し前までの僕だということを改めて確認する。習得している技能や戦術はすべて僕のものだ。 「ゼンチ。デバイス[HP回復]を任意作動できるか?」 「面倒くさいから嫌だね。大人しく条件付けして設定するんだな」 「なら、タイプBで頼む。できるだけ確率を高めてほしい」 HPが半減した時に確率で発動するのがタイプBだ。 「なんとなく君がやりたいことが見えてきたけど、それってカッコいいのか?」 「カッコいいかどうかなんて主観だよ」
「バァ!」 心臓に悪い光景だ。生憎とハロウィンじゃないし、夏も過ぎ去ろうという季節なので浮いて見える。 奴はSロールからのギ・フォイエを行う。
対して僕は、雑魚戦で使い慣れたモーメントゲイルを行った。 モーメントゲイルにはスーパーアーマーという特性がある。途中で攻撃を受けても怯まないのだ。 案の定、僕のHPバーはギフォイエに触れるたびにどんどん削れていく。だが、HP回復デバイスの効果で回復する。 そして、モーメントゲイルの派生でザンバースと吸引効果のある空間を発生させる。 「オノレェー!」 側転をしたピエロは、大地に足を付けることもできずにザンバースの中心点に引き寄せられていく。 とても蹴りやすい場所に落ちてくるピエロ。 1体1の状況なら、スタンさせれば勝ったも同然だというのに。 「ゼンチ。ケートス・プロイ!」 「やれやれ、やっぱり酷いやつだよ、君。あまりにも台無しすぎて面白いがね」 文句を言いながらも、ゼンチは白と虹に光り輝く巨大な魚になった。 目の前には頭をくらくらさせているピエロが突っ立っていた。 つまり。
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