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『君、弱いな』

ゼンチが笑いながらそう言う。言い返すことはできなかった。戦闘不能状態で言い訳なんて見苦しいにもほどがある。

『なんだか、戦いにカッコよさだとか、あるいは楽しさみたいなものを求めているじゃないか?』

その通りだ。だって僕がアークスになった理由の半分はそれだ。
もう半分はコーデなのだから不真面目と言ってもいいかもしれない。

チャコさんのように守るべき家族は僕にはいない。
なぜアークスになったのかと言えば単なる憧れなのだ。
あのイメージPVにいたアークスたちは、僕の憧れで夢だった。
だから、僕はカッコいいことに拘る。

『だって、ゼンチ。カッコよくないと誰にも憧れてもらえないだろ?』

『……なるほど、君はどうしようもない目立ちたがり屋でカッコつけたがりなわけだ』

ゼンチは無いはずの肩を竦め、言葉を続ける。

『とても凡庸だけど少なくとも君は退屈な存在じゃないらしい。なら少しだけ手を貸してやろう』

試算完了、プレゼントだ。そう言って、ゼンチは僕の身体を賦活する。




「HOHOHOHOHO!」

ピエロは哄笑をあげながら僕をずっと見下していた。
まるで僕がキャンプシップに帰らず、この場で起き上がるのを知っていたかのように。

立ち上がる。HPは最大値の半分だ。
その時点での彼我の距離はわずか3m。

「仕切りなおすぞ」

「イイヨォ!」

僕はグランウェイヴの派生で、ピエロはSロールで離れた。彼我の距離15m。
僕は岩陰に半身を隠れさせ、ピエロは猿のように木の上に陣取る。

「ゼンチ、さっきのは?」

「マグデバイスの[復活]だ」

「そんなデバイス挿した覚えないぞ」

「腐ってもフォトナーだ。マグに出来る範囲のことならやれるさ」

「……もしかして、何度でもできるか?」

「まさか! 本来は極稀にしかできない効果だぞ? 僕の内在フォトンをかなり食うから、探索一度につき一回までにしてくれ」

確かに、空腹状態になっているようだ。あれだけフランカさんの料理を食べたのに、消化が早い。
モノメイトを取り出してゼンチの鼻っ面に掲げる。

「ありがたく頂くとしよう。だけど、いくら食べさせてもらってもあれはそう簡単には使わない」

仕方ない。大体、戦闘不能でもキャンプシップに戻ればいいのだから、わざわざ使う機会も少ないとは思う。

「じゃあ、フォトンブラストはどうなってる?」

「未定だよ。今なら好きな既存のフォトンブラストにできる。変更したらそれでしばらく通すことになる」

オリジナルのように時間操作ができるフォトンブラストになれるか、とちょっと期待したが無理なようだ。

フォトンブラストとは、マグを幻獣に変身させ独自の行動を行わせる、というアークスにとっての必殺技である。
稀にしか使用できないが、その分強力な効果がある。

「なら、ケートス・プロイになってくれ」

「いいだろう。ところで、君のコピーは焦れてこっちに来てるぞ」


ピエロが器用に横を向いた状態でこちらに向かって側転してくる。
俗に言う前ロールという技法だ。結構コツがいるので昔練習したことを覚えている。

あのピエロは少し前までの僕だということを改めて確認する。習得している技能や戦術はすべて僕のものだ。
要は僕が苦手だったことをやれば、あいつに勝てる。

「ゼンチ。デバイス[HP回復]を任意作動できるか?」

「面倒くさいから嫌だね。大人しく条件付けして設定するんだな」

「なら、タイプBで頼む。できるだけ確率を高めてほしい」

HPが半減した時に確率で発動するのがタイプBだ。

「なんとなく君がやりたいことが見えてきたけど、それってカッコいいのか?」

「カッコいいかどうかなんて主観だよ」


言うと同時に上から逆さまになったピエロが落ちてくる。

「バァ!」

心臓に悪い光景だ。生憎とハロウィンじゃないし、夏も過ぎ去ろうという季節なので浮いて見える。

奴はSロールからのギ・フォイエを行う。
ヒットバックを長時間に渡ってその場所で発生させるので攻防に使用できるテクニックである。
その後の立ち回りで優位に立つために使用したのだろう。
ピエロを中心に炎の輪が広がる。


「残念だったな。モーメントゲイル!」

対して僕は、雑魚戦で使い慣れたモーメントゲイルを行った。
ギ・フォイエの炎が僕の身体を焼き、僕はピエロの身体をX字状に五回蹴る。

モーメントゲイルにはスーパーアーマーという特性がある。途中で攻撃を受けても怯まないのだ。
その分、今のように連続で攻撃を受けることもある。

案の定、僕のHPバーはギフォイエに触れるたびにどんどん削れていく。だが、HP回復デバイスの効果で回復する。
怯みもしない強引な攻撃をされるのが、僕は苦手だった。つまりピエロも苦手なのだ。

そして、モーメントゲイルの派生でザンバースと吸引効果のある空間を発生させる。
吸引力はゾンディールほどではないが、Sロールでの逃走を阻害できる。

「オノレェー!」

側転をしたピエロは、大地に足を付けることもできずにザンバースの中心点に引き寄せられていく。

とても蹴りやすい場所に落ちてくるピエロ。
僕はゆっくりとストライクガストをチャージし、発動した。
このPAは頂点での蹴りが最も火力が高い。落ち着いてそれを出し切るまで連続蹴りを行い、派生する。
そして、蹴り落とした後は追撃をしない。蹴り落としは、相手をスタンさせるのだ。
スタンした敵は一定時間動けない。
ただ、ダメージを食らうとショックから目覚める。さっきは気が逸って追撃をしてしまったが、それが失敗だったのだ。

1体1の状況なら、スタンさせれば勝ったも同然だというのに。

「ゼンチ。ケートス・プロイ!」

「やれやれ、やっぱり酷いやつだよ、君。あまりにも台無しすぎて面白いがね」

文句を言いながらも、ゼンチは白と虹に光り輝く巨大な魚になった。
幻獣:ケートス。
魚は僕の頭上を渦を描くように泳ぎ、莫大な量のフォトンをシャワーにして降らせた。
急速に僕のフォトンが溢れんばかりに回復する。

目の前には頭をくらくらさせているピエロが突っ立っていた。
いまならいくらでもストライクガストができる。

つまり。
ケートス・プロイにフォトン回復を任せて、その間ストライクガストを繰り返すだけで相手が一歩も動けないまま勝てる状態になった。


 

 

 

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