ファイル3:変革/Trans
|
再建途中で放棄されたスフィアアリーナでクーナはそうつぶやく。 仕事なので渋々資料には目を通した。
クーナはそれまでデューマンとさほど交流があるわけではなかった。興味もない。 だが資料によれば彼らは弟……ハドレットの系譜らしい。
(私が使えないなら、そう言ってくれればいいのに) クーナは薄々そう思われていると気づいていた。 だが、ウルクをはじめとして幾人かの人間からの評価が下がっていた。 彼女なら原因が分かるのだろうか?
「!? 誰?」 人避けをしていたはずのスフィアアリーナに人影が現れる。 「ウルクちゃんに頼んだ資料は受け取ってくれたかな? ダメ押しにきました!」 「……資料、ですか?」 クーナはアイドルの仮面を被るのを忘れていた。つい始末屋のような声色が出る。 彼女は一体どれほど自分のことを知っているのだろう? 「ん。デューマンについて知っててもらいたくてさ。それと、デューマンのファンを連れてきたわ」 別にデューマンのファンは珍しいわけではない。 少なくとも、彼女には敵意も企みもなさそうだ。いつも通りアイドルの仮面を被ってにこやかにほほ笑む。 「えっと……、あたしはサフラン!」 「サフランちゃんっていうんだ? かわいい名前だねー!」 どうしてチャコはこの子を連れてきたのだろう? 「ねえ、クーナ。アキさんから聞いたよ。あなたのことも、ハドレットのことも」 瞬間、クーナの笑顔が凍り付いた。 「あたし、お礼が言いたくて」 「……お礼?」 自分でも信じられないほど言葉が冷える。目の前のデューマンは何を言うつもりなのか。 「うん! ハドレットのおかげで今のあたしがいるって」 こともあろうに、ハドレットの存在意義を自分に置き換えられた。 「……そんなこと、あの子は望んではいませんでした!」 ついにアイドルの仮面をかなぐり捨てた。 「あの子が、望んでいたのは……!」 私の歌を聞きながら、平穏な生活を出来たら……。 クーナとハドレットは研究室の清潔だが暗い部屋で、半ば軟禁されていた。 震えるクーナの手にサフランの手が触れられる。 「……ごめんね。クーナ」 「触らないで!」 払いのけると、サフランは一瞬驚いた顔をした。 だが、次の瞬間サフランに、もう片方の手を両手で握られた。 「あたしさ。親友が出来たんだ」 「こ、今度は幸せ自慢ですか……?」 喧嘩でも売っているのだろうか? クーナは睨みつける。 「ん。そうなっちゃうかも。レラ来てくれる?」 〔わかったー〕〔開いたらすぐに行くよ!〕 サフランがそう言うとスフィアアリーナの天井が音を立てて展開していく。 「……え?」 アークスシップの狭い人工の空をクォーツドラゴンが飛行している。 目を丸くしてクーナはその様子を眺める。 「レラっていうんだ。こっちはクーナ」 サフランは当たり前のように紹介をしている。当のクォーツドラゴンもそれに倣った。 〔はじめまして!〕〔コ・レラです!〕〔サフランのこと〕〔よろしくね!〕 「ちょっとレラ? まるでお姉みたいなんだけど? あとうるさいってば!」 サフランは頬を膨らませている。彼女たちは笑いあっていた。 私とハドレットにも、あんな時期があった。どれほど昔だろう。 〔ん?〕〔クーナは〕〔どうして泣いてるんだ?〕 クーナは指摘されて涙を拭う。 「な、泣いてなんか……ふ、ふふ……、あははっ。うん、負けたよ! 悔しいくらい幸せそうだね!」 今度は自然と笑い声がでてくる。そんな自分にびっくりしていた。 ……ああ、この子たちは私にあの日の続きを見せてくれるのか。 ひとしきり笑い終わると、クーナは尋ねた。 「紹介されたってことは、友達ってことでいいの?」 「もちろん!」〔友達!〕 こんな私を友達と言ってくれた一人と一匹に感謝する。 クーナは、チャコに振り返って言う。 「チャコさん。いい人たち紹介してくれてありがとね!」 吹っ切れたような笑顔でそう言った。 だから、チャコも満足げに応える。 「じゃ、ご褒美に和ロックつくって! アップテンポでかわいいやつ!」 PN:チャルチウィトリクエ。クーナの時間でのお願いを彼女は繰り返したのだった。
|