■Kisovi Side
旧ローゼノム・シティ、居住区。
先のコロニーシャフトが落ちる大災害で大きな被害を蒙り、復興を諦め破棄された街。
その爆心地にほど近い中心に位置するエリアに、俺達"捜索臨時編成班"は向かっていた。
『資料は何度もみたけど、確かにこりゃ"墓標"って呼びたくもなるかもねぇ』
『……ソフィアさん、不謹慎にゃ』
「キロ2、私語は慎んどけ」
『っと、ごめん』
最初の声は小柄な女性型キャストで、名をソフィア。金髪の巻き毛にフリフリのドレスタイプの外装を身に着けている癖して、その実我が隊のキロ2――つまりは副隊長を務める猛者なのだが、少々言動に皮肉が効いてるのが玉に傷だろうか。
もう一人は機動警備部3課の2班班長を務めるニューマンの少女、特設キロ3のノラネコさんのもの。
いつものような弾んだ物言いではなく押し付けたような圧力があるのは、やはりエミさんを心配しての事だろう。
『エミさんなら、きっと対象をとっ捕まえて意気揚々と引き返してくるって。ノラさんが出る幕もないと思うよ』
その点は俺もそう思う。
難事件であっても、朗らかに笑っている印象の多い3課4班班長の表情を脳裏に思い浮かべていると、一つ頷くような間の後にぽつんとノラさんの消え入りそうな声が聞こえた。
『……いいのにゃ。エミにゃが、無事なら』
「ふむ……」
エミさんって……つくづく女性陣からは好かれてるよな。女難の相でも出てるんじゃないか?
エミさんの行く末を憂いた所で、先行していたノラさんから通信が入る。
『……前方に熱源反応多数接近にゃ。推定キャストタイプ、数35』
「おいでなすったか。ゴキブリみてぇに何処からともなくワラワラと沸いてきやがって畜生め……!」
俺はため息混じりに悪態をついた。
こちとら三人しかいねぇってのに、少なく見積もっても10体以上相手せにゃならんってか?
(ケイさんも無茶言ってくれるゼ……)
しかし、30人以上もこんな廃墟に差し向けられるとは、エミさんはどんだけ重要な情報を掴んだんだか……。
『待って、隊が分かれる……こっち正面へ20、別ポイントへ15……!』
ソフィアの声に眼前のアイモニタに注意を移すと、光点がこっちへ向かうものと別のポイントへ向かおうとしているのがはっきり映った。
『こっちが来てるのは先刻ご承知って事にゃね……。
正面の隊を抜いてポイントβに先回り、目標EとTの確保を急がないと……んにゃ?』
「ん。何か見えたかキロ3?」
いやな予感を覚えてノラさんに問いかける。
『正面の20、赤いキャスト……マガシが多数、にゃ』
ほう、エンドラム機関崩壊後行方くらましてたマガシか……って。ちょっと待て、マガシが多数?
「――コピーキャストか!?」
一人のキャストの記憶から複数コピーを生み出す――。原理としては至極簡単だが、コピー先だけでなく場合によってはコピー元にすら記憶の劣化をはじめとした様々な弊害が出る事が分かっていて、使用は堅く禁じられているはずの技術だ。
(しかしコピーとなると、ちと面倒だな……)
少なくとも、エンドラム機関に所属していた頃のマガシは双剣使いとしても名が知れていた。
量産と言うことは若干の性能や記憶の劣化はあるのだろうが、それが20押し寄せて来るってのは――。
『なるほど、最近あっちこっちで目撃情報寄せられてると思ってたら……なんて事はない、量産されてたのにゃね』
『とっちめて一体捕獲すれば色々分かるんじゃない?どうするキロ1?』
「それも魅力的な案ではあるが、今回は目標EとTの確保が最優先だ。そちらが確保できるなら許可する」
しかし、何故劣化の分かっているコピー技術などを使って"イルミナス"は手下を増やしたんだ?
一度声を掛ければ相応の腕利きだって集められるだろうに。
『最近パルムで起きてる連続殺人事件、"イルミナス"の内紛に関係してるんじゃないかって言われてるし、大方そのあたりじゃないの?』
「思考を読むなよ……まぁ俺もそうだろうって思ってたが」
多発している大手ゼネコンや薬品会社の人間の暗殺。
その大半が、慎重に紐解いてみると"イルミナス"に多かれ少なかれ関わっていたとされる。
それだけ関わった人間に対し派手に被害が及べば、敬遠し出す人間がいるのも十分考えられよう。幾ら悪党でもルールも守れないようでは次第に敬遠され、やがて淘汰されるのは目に見えている。
『"イルミナス"は、このままいけば遅かれ早かれ、いずれ崩壊するにゃ。
でも、それまで放置してたら……誰かがまた、辛い目に逢う。ノラは、そうしたくないから』
「あぁ、そうだな。
そうさせないためにも、一仕事するとしようか……各員、戦闘用意。
目標EとTの速やかな確保の為、目の前の敵を排除する。ただし、無理だけはするなよ?」
『『了解ッ!!』』