4th Chapter ツイン・ジーン
Cross Point







■Nora-neco Side

「……ガーディアンズ機動警備部の者です。
  レンヴォルト・マガシさんですね?貴方に殺人容疑で逮捕状が出ています。任意同行を願えますか?」
「……ふん、ガーディアンズか。たった一人で我々に敵うとでも?
  "イルミナス"の意志はヒューマンの意志。それを邪魔だてする者には、死、あるのみだ!」

まぁ形式的に言ったところで聞く気を持たないのは、元々の性格を考えれば想定の範囲内にゃね。
もう少しすれば――。

「従順を強制して、刃向かえば粛正……?ディストピアでも作るつもりにゃ?
 それに大多数のヒューマンはそんな事考えてない。そんな事考えてるのは、あんたらだけにゃ!」
「ふん、高貴な思考など俗物に説いても無駄、か。今更邪魔をするガーディアンズが一人増えようが二人増えようが同じ事。所詮貴様のようなヒューマンの出来損ないの餓鬼がイキがったところで、全体の意志は揺るがん。
 貴様には我らに刃向かった故、ふさわしい殺し方をしてやろう」


……今、言っちゃいけない事言った、コイツ。
デキソコナイ?ノラガ、デキソコナイ?


「……たった70年そこら生きた程度で、よくもそんな判断が出来たものね。
 そもそも、アンタは"個人"として生まれた訳ですらないのに。
 ヒトを見た目でしか判断出来ない――それがどういう結果に繋がるか。その"餓鬼"の攻撃で身をもって知りなさい!
 ……公務執行妨害、破防法適用、殺人及び殺人未遂、その他諸々纏めてつけて――
 貴方達を現行犯逮捕する!そこ動くなっ!」
「ハッ、動いたところで何だと言うのだ?貴様など、この剣で真っ二つだァ!」

先頭のマガシが炎を纏ったツインセイバーを抜き、こちらへ飛びかかかってくる。
はぃ、正当防衛も付きましたー、にゃ。

「……動くなと言ったッ!」
 
遠い、遠い昔。
ラグオル……"楽園"と名付けられた星で引き起こされた、一つの望まれざる穢れた奇跡。
"あの時"の苦しみを、悲しみを、もう二度と引き起こさない為に。
様々な世界を渡り歩き、様々な武器を試し、様々な武技を学び――アタシはひたすら自分を鍛え磨いてきた。
全ては、自分の居場所を護る為に。そして、時を超え再び出会った"仲間"の為に。

(こんな奴らなんかに、そんなちっぽけな野望の為に――みんなとの絆、絶対に途絶えさせやしない!)

助走をつけて大きくジャンプ、空中で体を捻りながら許されざる台詞を吐いたマガシへと一気に肉薄する。予想外の跳躍に驚いた表情を浮かべても――もう遅い!

「ってええぇええぇえッッ!!」

ナノトランサーからショートカットで呼び出した両腕の双鋼爪――ニューマンの始祖と伝えられている"ネイ"の名が冠されたクロー――を大上段に構え、着地寸前で全体重を乗せ一気に振り下ろすと、あっと言う間にマガシだった物がバラバラのパーツとなって周囲へ爆発的に散らばっていく。

「――ッ!」

人工血液とオイルの飛沫を振り払うかの如く右手を振り降ろした勢いで左へ急旋回、返す左手で背後から迫ってきた別のマガシの顔に、腕のスナップを利かせた裏拳を手加減なしで叩き込み、振り向きすらせずに次の獲物へ飛びかかる。

「遅い!それ位で裏を掻いた積もり?聞いて呆れるにゃ!」
「ほざけぇ!」

一矢も報えない事に焦りを感じたのか、それとも数の暴力で押し込もうとしたのか、大量のマガシがこちらへ向かって殺到する。けれどその位置は、アタシが誘い込んだ場所。
マガシ達が罠にはまった事を確信して、アタシは背後へ鋭く叫ぶ。

「今にゃ!」
『待ってましたぁ!』
『へいへい。忘れられてるかと思ったぜ、っと!』

寧ろのんびりとした声と共に、アタシに覆い被さろうとしてきたマガシが見えない腕に薙払われたように弾け飛ぶ。きそびんとソフィアさんの背後からの援護射撃だ。
流石はキロ隊隊長と副隊長。前もって相談しなくたってアドリブで合わせてくれるので、気兼ねなく突っ込めるのはありがたい。
アタシは悠々と薄くなった包囲網を突破して二人の位置へと飛びすさる。

「サポートさんきゅにゃ、二人とも!」
「てかさー……もうノラさんだけでいいんじゃね?」
「一応俺たちの仕事も少しは残しといてくれよ?」

牽制の為のフォトン弾をバラマきながら、きそびんとソフィアさんの笑いを含んだ呆れ声が返ってくる。
えー、本気のほの字も出してないのにぃ。

「"イーグルアイ"のキロ隊、だと?!何故貴様等が――」
「こんなとこに居るんだ、ってか?
 今更気づいたのかョ。さっすがコピー、記憶の劣化も半端ねぇな。
 そりゃ当然、あんたらの好き勝手をそろそろオシマイにしてやろうって事だよ」

ソフィアさんが小柄な愛くるしい姿で、油断無くスマートライフルを構えたまま底冷えする様な笑みを浮かべる。

「量産されたからって数の暴力で勝てるとでも思ったにゃ?それはつまり……」
「お前は雑魚扱いに格下げになったってこったよ、よーっく覚えときやがれ!」

……きそびんにドヤ顔で決め台詞言われちゃったにゃ。
くすん。

「さぁて、コピー共。"イルミナス"にお祈りは済ませたか?ま、どーせ祈ってもアンタ等は全員、ここで検挙だ。もし抵抗しようとすれば――」
「さっきの通り。キャストは記憶機構と脳殻ユニットさえ生きていれば体は全損しても問題ない……意味は分かるにゃね?」
「えーっと、ノラさぁん……一応、コイツ等指名手配犯なんだからお手柔らかな検挙を頼みたいんだけど……」
「無理にゃ。コイツ等は――許さないから」
「……だ、そうだ。
 悪い事は言わん、五体満足で居たいならここらで諦めて投降した方が身の為だぜ?」
「ふん。曲芸じみた戦術で先ほどは不意を突かれたが……未だこちらの数が上だ。
 幾ら手練とは言え、この波状攻撃に耐えられるか?」

相手は18対36本の片手剣。こちらは2丁のスマートライフルと1対のクロー。
圧倒的不利な状況での圧倒的有利な戦いが始まった。











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