■Noraーneco Side
「対象Tが居るって事は、Eも近くに……。!!ッ、ビーコン確認!」
「よっしビンゴぉ!さくっと合流して――」
あまりにも異次元な戦闘に惚けてしまっていたのか、遠くに聞こえたソフィアさんときそびんの声に引き戻される。
反射的に右腕の端末腕環に目を落とし――あたしは戦慄した。
「――ちょっと待って……。
エミ姉の生命反応……微弱?!それってどういう……?!」
本人を示す信号の脇に表示された、バイタル値の波。
その起伏低下――それは、考えうる限り最悪の事態だった。表示が示す事は、ただ一つ。
(エミ姉が、死に、掛けて、る……?そんな、そんな)
間違いであってほしい。
端末腕環の故障であってほしい。
強く、強くそう願いながら、雨の中を駆け出す。
「ノラさん?!」
「チッ、追うぞソフィア!ノラさんはともかく、エミさんがヤバい!」
早く。速く!一秒でも疾く!
私はがむしゃらに駆けて、デリータ部隊が展開している最中に真正面から突っ込む。
「邪魔にゃあああ!!!」
無我夢中で目の前の敵を弾き、斬り、叩き潰し、ひたすら道を造る。
その先にいたのは――。
「くそッ、まだ残党がいたのか……?!」
全身血だらけでエミ姉を必死に守ろうとする、燃えるような紅い髪を持つ少女と、
その腕に抱かれ、右肩を赤黒く染めた、血の気のないエミ姉――。
「エミ姉!!」
「大丈夫だ、俺はアンタ等の味方だ……遅れてすまん!」
「エミ姉……!!」
追いついてきたきそびんの声にもかまわず、エミ姉に駆け寄る。
呼びかけるが、返事がない。
出血が酷い。脈と呼吸を確認。
微弱ではあるが……まだ息がある。脈もある。
(いき、てた……生きてた、ぁ……)
大きくため息をつき、私はエミ姉の傍らにヘたり込む。
ギリギリ、間に合ったのだ。
「よかった……よかった、よぉ」
涙でくしゃくしゃになりながら状態を確認。
右肩から右胸にかけて大きな裂傷。脈と呼吸があるとは言っても弱々しく、肌は土気色に近い。
予断は許さない状況。
(……!)
あたしは導具――フォトン電池を媒介にテクニックを紡ぐ為の"この世界"特有のメカニック――を使わず、精神を集中させて脳内魔力回路を開放し、無我夢中でレスタを唱えた。
そもそもレスタというテクニック自体は、生体組織を活性化させて傷を塞ぐことはできても、失った血は戻せない。そして細胞の活性化は生体の本来の生きる力を一時的に間借りしているに過ぎないから、過度な回復は弱った生体に対して時として致死の負荷を強いることにもなる。
応急処置はできても、完治には至らない……ナノマシンや擬体化技術が高度に発達した"この世界"でも、病院という存在がなくならない理由の一つだ。
それに普段導具を持たない私が扱うレスタは、本来別世界の理論で構成されたテクニックで、"この世界"の住人に何処まで効果があるのかは未知数……後は、エミ姉の体力に掛けるしかない。
「至近のヴィークルに救援要請、到着まで――後8分だって?!」
「遅ぇっ!2分で着くよう伝えろ!こっちには重体患者が二人もいるんだ!」
「そんな事言ってたら、エミ姉が……ッ!」
このままじゃ、"あの時"と同じになっちゃう……!