Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point











■Kareha Side

「――っしゃぁ!捕まえたッ、キロ隊キロ2から救援信号!!」

待ちに待った"ボス"の叫びに、私はほっとすると同時、「救援信号」という言葉に気を引き締めました。
キロ隊――名うての空挺部隊員だったキソヴィさん率いる、歴戦の猛者が集まる特殊任務班からの救援です。

(……ここからが、本番!)

手にジワリとにじむ汗を感じつつ、私は"ボス"へ叫びます。

「場所は?!」
「すぐ近くの開けたエリアだ、ターゲットはそっちのHUDに表示させる。
 それよりアタイ子!ここで機体落としたら承知しねぇぞ!」
「そんなヘマはしません!」

本来申請された機体以外は飛行を禁止されている区域への無許可侵入。なるべく目立たぬようステルス巡航モードでここまで来ましたが、発信源が分かればそうも言っていられません。
機体を慎重に、大胆に操りながら、HUDに表示される仮想目標へ向かって全力でそちらへ向かいます。
乱立するビルの間で乱気流が発生して度々機体が流されますが、手早く微調整。
機体を立て直し、機首を信号発信源に素早く旋回させながら熱光学迷彩及び無線封鎖を解除。
私はガーディアンズが使用する周波数帯で呼びかけました。

「――こちら、ガーディアンズ機動警備部3課所属輸送艇、"イフィゲネイア301"。キロ隊、聞こえますか?!」
『その声は――カレハさん?!何故ここに?!』
「うちのヤマアラシ隊長の独自判断で、キロ隊と対象2名の回収に来たぜ!早いとこ着陸地点指定を頼む!」
『Yoshio.も来たのか?!PBの指示って事は……。全く、相変わらずよく頭がキレるよなあのヤロウ……!』
「あのー。隊長はいつも女性陣にセクハラしてはキレる前に撃沈されてますが?」
『そーいうキレるじゃねーよ!
 ……って、んな事はどうでもいい。俺とソフィア、ノラさんは無傷でピンシャンしてるが、後の二人が問題だ。
 ティルって娘は全身に裂傷で重傷。それとエミさんが――』

一瞬、口ごもったキソヴィさんが躊躇いがちに言った言葉は、私にショックを与えるのに十分でした。

『――右肩からザックリやられて出血多量、意識不明の重体だ。今ノラさんが応急手当してるが……恐らくコロニーまでは保つまい。パルム中央病院への緊急搬送を希望する!』
「そんな。えみな、さんが……」
「ボサッとすんな!復唱しろカレハァッ!!」

そんな状態の私に活を入れたのは、他でもない"ボス"。

「き、キロ隊3名は怪我無し。対象者2名の内、1名重傷、1名重体。
 パルム中央病院への緊急搬送を要する、了解!――てんてー!」

背後に振り向くと、緊張した面もちのてんてーが一つ頷きます。

「委細合点承知!!
 カレさん、着陸しながら後部ハッチ開いて!こっちはいつでもいける!」
「了解!!――"ボス"!」

右横に振り向くと、もう既に無線機をいじり始めた"ボス"がいました。

「バカヤロ、皆まで言うんじゃねーよ!えーと、これがこうでこっちをこうして……繋がった!
 あーあー、こちらガーディアンズ・機動警備部3課所属、高速輸送艇"イフィゲネイア301"。副操縦士Yoshio.だ。パルム航空管制、聞こえるか?緊急事態発生、繰り返す、緊急事態発生!!
 ――ええぃ、誰でもいいからとっとと反応しやがれ!」
『こちらパルム航空管制。イフィゲネイア301、貴機は進入禁止空域に侵入している。速やかに待避されたし』
「バカヤロウ!こっちゃァ人の命が掛かってんだ、それ位大目に見やがれ!」
『――イフィゲネイア301、何があった?』
「機体回送の為航行中、捜索隊のSOS信号を受信。発信地に急行したところ重傷者二名を発見、うち一名が意識不明の重体です。
 パルム中央病院への緊急搬送の為、緊急航路選定を要請します!」
『……了解。しばし待て』

こちらはコンマ一秒たりとて無駄にできないってのに!
ジリジリと待つこと暫し、ようやく先方から返事がありました。

『……・ガーディアンズ憲章第10条3項適用に伴い、緊急航路を最短距離で選定したデータを送信する。貴機の安全と負傷者の無事を祈る。――以上、パルム航空管制』
「了解、協力に感謝する!以上、イフィゲネイア301。――うし、折り合いついたぜ!!てんてー、いいか?!」
『収容、もう少し……ノラさん、そっち持って……完了!出して!』
「っしゃ、ぶっ飛ばせアタイ子ォ!」
「言われるまでもなく!」
『カレハさん、ノラさん、Yosho.、俺らも後で追いかける。病院で会おう!』
「了解です!キソヴィさん、ソフィアさん、この後を頼みます。こちらはお任せください!
 ノラさん、ちゃんと掴まってて下さいよ!」
『にゃ!』

ハッチを閉めるのももどかしく、機体をゆっくり旋回させながら離陸、ハッチ完全閉鎖を確認したところで反重力装置をフル稼働、一気に急速ズームをかけます。
目指すはパルム中央病院。ここからは時間との勝負。

(えみなさん、絶対――絶対に、助けます!)

その願いと共に、私はスロットルを最大出力へ一気に叩き込んだのでした。






 







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