次の瞬間、その場に響いたのは水が爆ぜたような音ではなく、短い、乾いた炸裂音だった。
それに続き、フォトンと金属がぶつかり合う耳障りな音が連続して響き、一瞬、本当に一瞬だけ、ルシーダの動きが止まる。
まっすぐにボクの頭へ落ちるはずだった剣先は、大きくずれて左に旋回され、彼女は発射音――マシンガンを瞬時に剣先へ当てた人物の方へ向き直った。
「探してた道ってのは……こんな事かよ、ティル?」
「"店長"……!?」
「気になって追ってきてみりゃ、なぁ。結局てめぇも、それしかねぇってのかよ……?」
硝煙の煙をたなびかせる小型マシンガンの銃口をこちらへ向けたまま、悲しげに、呟くように言う、ヒューマン男性の姿があった。
あれ、この人、どこかで……?
「邪魔をするか貴様ァ!!
ティル・ベルクラント!裏切り者を"消去"しろッ!!」
「490?!」
「裏切り者には死、あるのみ。分かっているだろう?さぁ、とっとと始末しろ」
「……!?」
初めて、ルシーダの表情に困惑の色が浮かんだ。
「えぇい、肝心なときに使えん奴め!デリータ部隊、纏めて薙払――」
「……っそッたれぇっ!!!!」
敵の敵は味方、自分のカンを信じるしかない。それに、たぶんあの人は――。
490の周囲に現れた敵に対して、ボクは全力で走った。怒りに任せて、ナックルで腕をへし折り、クレアダブルスで足を切り飛ばす。
「ほっほぉ。やるじゃねーか、嬢ちゃん?」
「……やっぱり、貴方はあの時の!?」
「覚えときな、"店長"だ!」
そう言うやいなや、ボクの援護に回ってくれる。身のこなしで分かる。この人、かなりの猛者だ。
「ちぃッ、まずは裏切り者からしとめろ!」
490の一声で、一斉に周囲の"デリータ"の銃口が彼に向けられる、が。
「雑魚どもばかりで俺に勝てるとでも?嘗められたもんだなぁ、おい?」
当の本人は悠々と周囲を見回し、鼻で笑う。
マシンガンとダガーがナノトランサーに収納され、代わりに彼の手中に現れたのは――巨大な実体剣。
いや、敢えて言うならば、両手持ちのサバイバルナイフだろうか。
「俺のTACネーム、知ってるか?」
「死に行く者の話など、聞く耳持たんな」
「ま、知らなくても無理はねぇ……今じゃ"店長"の方が通り良いしな。銃火器の方が何かと手軽だからって話もあるが――」
「撃てェッ!!」
「チッ、これだから短気なヤロー共は……!!」
無造作に巨大なナイフを構える"店長"。
相手は高出力なフォトンライフル、物質そのものを変換する力を持つ、純粋な破壊の力。
そんな物に貫かれたら最期、後には何も残らない!
そして、ルシーダの、悲鳴。
「"店長"っ!」
「おらよっと!」
無造作に振られたように見えた大剣は、炎に水を浴びせたような音を発しながら、フォトンビームを全て受けきった。
「な…んだと?!」
「曰く、"火消し屋"ってなぁ、俺の事だ」
歯を剥き、Lunaticの店長さんはそう言って嗤った。
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