「……く、ハハッ、この時を待ってたぜぇ?
殺しを楽しんでる旦那だからこその隙だ…残念だったなぁ!!」
「"店長"、手当を…!」
ルシーダの声を無視して、彼は物言わぬマガシを引きずり、血を流しながら建物の縁へと歩いていく。
追いかけようとするルシーダの足を止めたのは、一つの発砲音だった。発砲したのは――。
「おっと、ティル。それ以上近づくんじゃねぇぞ?」
「フ、フハハッ!
馬鹿め、これで終わるとでも思ったかっ!!このままここ一帯を吹き飛ばしてくれるわ!!」
490の哄笑に、彼は肩をすくめ、ほとほと呆れたというおっくうそうな表情で490へ視線を向ける。
「……馬鹿なのはお前だ。仕掛けられてる事くらい、先刻承知だっての。
ご丁寧に"本体"に爆薬詰め込んで、関係者を纏めてボーンって腹だったんだろうが……古典的に過ぎらぁ」
「な、……最初から……!?しかし、これなら――!」
哄笑を挙げ、余裕の表情で手元のスイッチを押す490。が、しかし次の瞬間その表情は歪む。
「……貴様ぁ!!」
「無線遠隔スイッチなんて基本中の基本だろうが。長年殺ししかしてなくて耄碌したか?……メイン電源絶った時点でお陀仏だよ馬ァ鹿!」
侮蔑の表情で心の底から愉快そうに嗤ってそう言い、店長さんはじりじりと建物の淵へ下がっていく。
「……流石のティルでも、カバと旦那二人がかりってのは無理があったしなぁ……。
まぁ、俺の最期の仕事としちゃ、悪かねぇか。
……ティル。長ぇ付き合いって程じゃなかったが……お前と過ごした時間ってのは、そう悪いもんじゃなかったぜ?
あと、嬢ちゃん……エミーナって言ったか?……ティルを、よろしくな。この寂しがり屋をしっかり支えてやってくれ。
けっ、そろそろこのポンコツも限界か。……あばよティル!その内、土産話もってこっちへ遊びに来いやぁ!!」
「"店長"!!」
ルシーダが叫んで手を伸ばすのと、彼の足がビルの橋から離れるのとが同時だった。
「"店長"おぉっ!!!!」
遅れて遙か下の階層から腹の底に響く、鈍く、大きく響く爆発音と、衝撃波。
店長さん は、これを初めからわかってて……!?
「ふん、末端の組織なりに役に立ってもらおうと思っていたが……。
たった一人消去するのにどれだけ時間を浪費する気だ?まぁ、所詮は使い捨てか。
なぁ、ティル・ベルクラント?貴様は……違うよなぁ?」
「僕……は……」
言葉に押し出されるように、ルシーダがボクへ剣を向ける。
でも、その剣先は震えていて……。
「ルシーダ……」
「くっ……」
ボクが一歩進んでも、今までの行動が嘘のように弱々しく頭を横に振るルシーダ。
「……もう、やめよう?」
カタカタと震える剣の切っ先。
僅か半歩踏み込めばそれが届く距離に、ルシーダは居た。
助けられなかった彼女。その彼女を、ようやく目の前にまで追いかけてこれた。
「君や、"店長"は……何故、何故僕なんかにそこまで……?
僕は君をここにおびき出し、殺そうとしたんだぞ!?それを……」
「ボクは……キミを取り戻したかったんだ。
"あの時"で止まっていた全部を取り戻して、もう一度、キミと、一緒に生きていきたいんだ。
ルシーダと、ただ一緒に居たい。それだけなんだ……」
「それだけの、ために……?」
震えながら呟くルシーダに、ボクは一つ頷く。
「……一緒に、帰ろう。ルシーダ」
彼女に、そっと、手を伸ばす――。
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