Cross Point
5th Night...[ホントウノキモチ]



 




彼女の手を、力が入らなくなりつつある左手で、ぎゅっと握る。
店長さんが、ボクに託してくれたもの。
……シンクが暗号解析してくれた"アルティア・メモ"の中にあって、唯一意味が分からなかった――『もう一人を、鍵として取り込む』という言葉。
490が示した、唯一のヒント――『生死は関係ない』。
それで、ようやく合点がいった。想像が正しければ、これが――最後の手段。
でもこの手段は、ルシーダにまた無理をさせてしまう。
それに、結果が想像と違っていたら?メモの内容が、間違っていたとしたら?

「エ、ミ……」

重なる震える手が、ぎゅ、と握り返してくる。

「ルシーダ……?」
「……その手段でなら、これを、終わらせられる?」
「……ッ」

何故わかるの、とは不思議と思わなかった。
ただ、ルシーダの事が心配で。思わず押し黙るボクを肯定と見て取ったか、彼女は一つ頷く。

「出来るん、だね?だったら、僕は……いいよ」
「……だって、失敗し、たら――」
「――二人とも、ここで死ぬだけだ。だったら僕は……少しでも希望がある方に、掛ける」

判断する余裕もない。やるしか、なかった。

「ん、分かった……方法、は」

ルシーダの耳元に、囁く。
季節は初夏だというのに、ボクの身体の震えは止まらない。

「どんな方法でもいい、ボクの生体組織を――取り込ん、で」
「生体、組織……を?」
「肉片でも、血でも、いいから……早、く……」

意識が朦朧としてくる。
身体が寒い。

「……ん、く」
「あ、ぐぅッ……!」

未だに赤い血が溢れてくるボクの右肩へ、ルシーダが口を寄せ。舌で傷を削り取るように小さく舐め取る。
朦朧とした意識が、傷口に触れられた痛みとルシーダの身体の熱とで、少しだけ引き戻された。
今にも気を失いそうになりながら、ボクはなんとかルシーダに言葉を紡ぐ。

「……チャンスは、いっか、い、きり……。これ、使って……」
「これ、君の……」

ノラに鍛えてもらった、愛用の炎属性クレアダブルスを、血まみれの震える左手でなんとか引き寄せ、彼女へと渡す。

「キミ、の、武器……さっきの、銃撃で……壊れ、ちゃったで、しょ?
 ボク、は……こんな、状態……で、戦えなく、なっちゃった……から。これ、使って、欲しい」
「分かった――すぐ、カタをつけるよ……だから、ちょっとだけ――ここで待ってて」
「……ぅ、ん」

ルシーダは、一回ぎゅ、っとボクの身体を抱きしめ、壁にもたせ掛けてくれたようだったけれど……実のところもう、頷く事すら億劫になってきていた。
目も霞んで、ちゃんと見えない……せめて、せめて最期にあの子の姿だけでも――。

「るしー、だ……!」
「……これから、もう一度"自分"を始める為に――これまでの"自分"を、ここで終わらせる。
  行って来るね、"姉さん"」
「……」

もう、何も見えない。
もう、何も聞こえない。
意識が闇に堕ちる寸前、ルシーダのボクを呼ぶ声が、遠くで微かに聴こえた気がした。

(ウィル……、ノラ……、そして、ルシーダ……ごめ、ん。ボク……もう、……)