場内に有効打撃を与えた事を示す電子音が鋭く響く。
『そ、そこまで!勝者……エミーナ・ハーヅウェル!!』
カレやんの声と、皆の歓声をどこか遠くに聞きながら、ボクはルシーダ諸とも倒れ込む。
2人分の、心臓の鼓動と、荒々しい呼吸。そして、燃えるように熱く、汗にまみれたお互いの身体、髪の匂い。
今ボクに感じられるのは、それだけだった。
(や……、った……やっ、た……)
うぅ、目の前がチカチカする。
軽い酸欠状態に陥ってる事を認識しながらも、暖かくて、柔らかなものに支えられたまま、やっぱり起き上がれない。
「エミーナ……お疲れ、さま」
「……わっ!?」
そのままの体勢で、穏やかな声と共に優しく身体を抱きしめられる。その時になって、ボクはようやく、自分がルシーダの胸元に倒れ込んでいた事を自覚した。
「あ、あのっ……」
何か言おうとして離れようとしても。
「……」
無言でぎゅ、っとガッチリホールドしてくるルシーダのせいで身動きがとれない。必死に顔だけでも上げて、彼女を見上げる。
「僕の、負けだ」
憑き物が落ちたような、寧ろ晴れ晴れとした表情で、ルシーダはボクだけに聞こえる声で呟いた。
「やられたよ……まさか、あんな戦法を取ってくるなんて」
「……それ位しなきゃ、キミには勝てなかった」
正直狙っていたとは言っても、後で同じ事をやれと言われたら再現できるかどうか。つまりはそれだけ、ぎりぎりだったのだ。
「それでも、勝ちは勝ちだ。賭けた内容は……」
「ボクが勝ったら、ボクと一緒に一日付き合う。キミが勝ったら、大切な物を一日自分の物にする――だったっけ」
「うん。でも、僕の賭けた内容も……今叶ったかもしれない」
「えっ?それって、どういう……」
「ん……ッ」
「?!」
キス、された。
え、と、ボクは女で、ルシーダも女で……ええぇ!?
「か、勘違いするな?これは、――そう、誓いのキスだ」
「……誓、い?」
「僕が……君を認めた証。君と共に、生きて、往く。その為の誓いだ」
「……」
その一言に……一瞬、胸が詰まって。
あぁ、と思う。
ルシーダと共に歩む一歩目を、やっと今、踏み出せたんだな、と理解する。
「エミーナ?」
「……うん、ありがと……ルシーダ」
何だかおかしくって。微笑み合って、自然とお互いの距離が近づく。
もう一度、そっと触れたルシーダの唇は、ちょっと震えていて、かさついていた。
(今度、リップスティック教えてあげなきゃ、な……)
ボクはその瞬間、そんな場違いな事を考えていた。
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