「……エミナさんも、なかなか隅に置けませんよねぇ。流石です!」
「いや、流石とか意味わかんないし」
「周囲の視線気にせず、ティルちゃんとキスだもんねぇ……鯖味噌の度胸におねーさん関心しちゃったわー」
「いやその、だって……あれはティルから……」
「エミにゃは男性隊員だけでなくて、女性隊員にも何故か人気があるからにゃ〜……」
「の、ノラまでぇ……」
会場片づけの傍らで、ボクとティルは知り合いの女性陣に捕まって、興味半分やっかみ半分の質問責めにあった。大半がティル――ルシーダとの関係についてだったのだが。
もちろんルシーダを巡る関係については、情報部や総合調査部他、一部の事情を知る人間以外には例え同じ機動警備部内であっても明かせない。プライベートでは姉妹であっても、職務上は赤の他人なのだ。
口下手なルシーダを先に帰し、代わりにボクが前もって考えておいた嘘を含めた内容をかい摘んで説明しなければならず、全て説明し終わる頃には陽も暮れてしまっていたのだった。
「鯖味噌もあれか、カレハみたくオトコじゃなくて可愛い女の子好きか!?」
「ぅえっ?!、ボクはノーマルだよッ!?」
「ちょ、マコ姐!私がまるでアブノーマルみたいじゃないですか!?」
「ん、違うの?」
「コホン……私はもっと、プラトニックですよぅ?」
「んだね。ただその方法が激しいだけで……」
「練炭……それ、フォローになってないョ……」
「れ、れんれんだってそうでしょー!?」
マコ姐と練炭のツッコミに思わず涙目で抗議するカレやんを、夕月先輩がまぁまぁと宥める光景もなんだか久々に見た気がする。
「……"ボス"なんて、『百合展開ktkr!!俺も混ぜろぉぉぉ!!』ってエミさん達に突撃する勢いだったんで、懸命に止めた位なんだよ?」
「念の為聞きますが……どうやって?」
「ん、問答無用で頭ブン殴った」
「へ、へぇ……」
先輩、それ止めたんじゃなくて実力行使です……というか"ボス"――Yoshio.も何やってるんだか……。
内心密かにツッコミを入れつつ、ボクはこっそりため息を吐く。傍らのノラが、僅かに苦笑してこっちをちらりと見た。ボクも同じように苦笑を返す。
「しかし……鯖味噌、よくクビにならなかったわねぇ」
マコ姐がしみじみ言う。
個人的理由による礼状なしの独自捜査、パートナーマシナリやガーディアンズデータベースに対する不正アクセス、更にはイルミナスと思われる重要人物への独断接触及び戦闘による自身の負傷――結果イルミナスへの調査が進展したとはいえ、どう控えめに見てもガーディアンズ一隊員として激しく逸脱した行動であり、本来なら懲戒免職されても文句を言えないような事をしでかしたのだ。
事情を知る総合調査部のケイさんや情報部の光鬼、そしてパルム支部長のウィルの口添えがなければ、今頃どうなってたか。
「大変だったんですよ、エミナさんが一人行動されてた時は。
これホントは秘密ですけど……ベルナドット隊長とこーきんが前もって上役に根回し工作されてましたし、"ボス"も動いてたんですよ」
「"ボス"が?」
「えぇ。
『エミが勝手に動くのは余程の事だ、ぜってぇ何かある。動ける奴は助太刀に行こうぜ!!』って言って。隊長も暗に認めてくれて、その一言のおかげで私たちもあの時、救援に駆けつけられたんです」
「普段バカなフリしてる癖して……よちおも結構ツンデレよねー」
「ツンデレというか、バカデレじゃ?」
「普段バカなのに、イザって時はデレるのにゃ?なんか、すっごい微妙に聞こえるのは何故かにゃー……」
普段セクハラ発言をしてはぶっ飛ばされる筆頭だけど、今回ばかりはあの三人に感謝しないとだなぁ。
そんな事を思っていると。
「よ、エミさん」
「あれ、こーきんじゃない。久しぶりだね〜」
噂をすればなんとやら。
ふらりと通路の角から現れたのは、光鬼だった。
「おひさし、試合の中継見たぜ。身体の方も大丈夫そうで何より」
「え……ど、どこまで見た?」
「ん、決着ついたとこですぐオフィス出たけど、それが?」
「う、うぅん!なんでもない!なんでもないから!」
よかった、あの場面は見てないのか……思わずため息が出る。
それにしても誰だよ、構内回線で中継してたの……まぁだいたい想像つくけどさぁ。
「それはそうと、ティル嬢の略式裁判の日程が決まったから、エミさんの耳に入れておこうかと思ってな」
「あ、決まったんだ」
そう、ルシーダ――ティル・ベルクラントは、今回の事件においての重要人物として、この後G's憲章に沿った略式裁判を受ける事になっていた。
彼の説明では、ボクが入院中に纏めた証言や、ケイさんとこーきんが公開したデータでの擁護もあり、問題なければ刑は大分軽く済むだろう、との事だった。
「……よかった」
「ま、罪は罪だが……あの子も一種の被害者だし。そーいうヒトを守るのも、俺たち情報部のお仕事ってわけさ」
「そいえばコーキンって、情報部だったのよねぇ……」
「普段機動警備部に出ずっぱりだから、私もすっかり忘れてました」
「君らね……」
まぁ、それだけ彼も警備部3課になくてはならない人材って事なんだろう。所属は情報部だけど。
「……そいえばエミにゃ?」
「ん、どしたのノラ?」
「中継されちゃったって事は、あのシーン、皆に見られちゃったんじゃ……」
「あ……」
ノラの一言に、ボクが真っ白になったのは言うまでもない。
その後、何故か女性ばかりの妙なファンクラブができて追っかけられたりしたのは、また別の話だったりする。
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