PiPi〜♪
アムの端末に呼び出し音が流れた。
先ほどから自分の端末から呼び出しをしてみても空間状況不良による不通メッセージが流れるだけだったのだ。
この状況で、呼び出し音が流れるはずが無い。
聞き間違いではないことを祈って、アムは震える手で通信をオンにした。
途端に響く聞きなれた声。
「は、はい…こちらアム」
「アムちゃんか?!」
「…!!っ
…ソーマ…さん……っ!」
止まっていた涙が流れ出す。
何時の間にか、ここまでソーマの存在が心の中で大きくなっていたとは気付かずに。
「わ…私…どうしたらっ…!」
「…落ち着いて聞け。今から、リュ―カーの展開手順を教える。
君が、皆を助けるんだ」
「で、でも…!」
「…皆で一緒に死にたいのか、君は?」
「!!」
ソーマのあまりの真剣な声音に、絶句するアム。
「実行できるのは君しかいない。そして、君が諦めれば全てがゼロになる」
「そんな…」
「確かに、リスクも高くて確実性にかけるだろうし、どの道君はただではすまないだろう。
だけどそれは成功確率だって同じさ。限りなくゼロに近いが、ゼロでは決して無いんだ。
ようはやる気があるかないか。そして運があるかないかの話…決めるのは君だ。
そして皆を救うのも、見殺しにするのも君だ…安心しろ。
言ったろ?俺に任せとけばすべてオッケイ、ってな。
言われたとおりにイメージしてみてくれ」
「…は、はいっ!!」
「時間が無い上にテクニック習得ディスクが無い、非常識な方法だが、並列感応でいく。
今のうちに手持ちのフルイドをすべて使って精神力を回復しておくんだ。
それが済んだら端末のショートカット機能でテクニックを強制的に反展開状態にする。
精神を集中してテクニックの準備が整ったら闇の中に浮かび上がる光の道をイメージしろ。
それは俺がこの施設で脱出に使うリューカーの道筋だ。
多少強引だが、それに割り込んで脱出することになる。
道が見えなかったらどこでもいいから行きたいところを思い描け!タイミングはそっちに一任する。
恐ろしく突貫で何のフォローも出来ない上、それしか伝えられないけど…。
頑張れ、君ならできるっ!」
「うん、やってみる。
…ウィル兄…みんな…許してね」
小さく呟き。
蒼い瞳を閉じ、バトルパージの持ち手部分を自分の額に軽く押し当て、テクニック展開の為の精神集中に入るアム。
それを見てアヤとシスカは青ざめた顔でアムとソーマの通信へ割り込んだ。
「アム姉?!やめて!!ソーマさん、何て事を!」
「アム姉を殺す気?!ソーマさん!!」
「馬鹿野郎!!!!!出来るもんなら俺が助けに行ってるさ!!!!
でも、これ以外の方法があるのか?!あるなら言ってみてくれよ!!
君たちゃレンジャーとハンターだろ?アムちゃんはフォースだ。
精神の修練を積んだ彼女にしかこれは出来ないんだよ…!」
「クッ…」
「そんな…」
いつも陽気なはずのフォニュームの悲痛な声に、2人は返す言葉も無い。
その背後から、非情とも思える追い討ちのような一言。
「…事実だ。それがわからない君達じゃあるまい?」
「ウィル兄っ…!!!
平気なの?!アム姉が死ぬかもしれないんだよっ?!」
実兄の妹に対するあまりな言葉に、エミーナからの回避も忘れ。
アヤは激情に任せてウィルの胸倉を掴む。
「分かってる…俺が代われるなら代わってやりたいさ!!!」
そのままアヤを抱え込み、無造作に高速で振られた鎌を避け、ウィルは右へジャンプ。
ギリギリで肩先が少々切り裂かれるが、気にせず配管の物影に隠れる。
シスカはライデンと共に左翼へ。
「…しかし…あいつが決めたことだ、俺には、口をはさむ権利は無い…。
例え、それでアムが命を落とすことになってもな!!」
アヤをその場に残したまま、ウィルはドラゴンスレイヤー片手に突っ込んでいく。
「ウィル兄ぃぃっ!!」
涙を流すのなら、そんな事を言わなければいいのに―――。
言葉になんかするんじゃなかった。全て分かっていて、あの人は―――。
兄妹の絆の深さを見たような気がして、兄のいないアヤはアムの事を羨ましく思う。
「――最後まで、出来ることを、か。……わたしだって!!」
師であるウィルの言葉を思い出し、アヤは涙を拭い、ぐっと手に力を込めた。
彼女の意志に反応して手に持つデモリションコメットが伸び、戦闘形態へ。
展開したフォトンの刃が、一際力強く輝く。
一息吐き、彼女は前を見据えた。
「…アヤ・スノート、助太刀します!!」
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