3rdNight
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―同時刻 惑星コーラル 某国首都 湾岸部 コンテナ置き場 某コンテナ内―

"…警察は現在、重要参考人としてマンションの所有者である大学生ガレス=オークニー君(17)の行方を追っています…次のニュースです…。"

「…好き勝手言ってくれるな。大体、俺は未成年なのに名指しかい。」

コンテナに偽装した隠れ家の中で、ガレスはTVのニュースに苦笑を浮かべながら缶詰の中身をペーパーソーサーの上に盛り付けた。リオネスは憮然としたまま、それを受け取り、側にあった卓袱台に置く。

「まあ、命があっただけでも儲け者だし…。どうしたの?」

水を向けられて、リオネスは憮然とした表情から何かを搾り出すように喋り出した。

「あんたはどうして、こんな物準備できるだけの金があるのに、何でハンター何かやってんのよ!
 第一、今のニュースの通りなら、あんた、財閥の総帥の弟、って話じゃない!そんな身分なら、ハンター何かしなくても遊んで暮せるじゃない!それとも何!?全部"金持ちの道楽"って奴なの!?」

リオネスはそこまでを言うと、机に置いてあったミネラルウォーターの入ったグラスを一気に煽って一息ついた。

「…そんな"金持ち"だからなんだよ。俺がこっちの世界に来たのは。」

そこまで言うと、ガレスは卓袱台を挟んでリオネスの正面に座った。

「…君は後継者争いで身内に殺されそうになった事があるかい!?」
「!!」

絶句するリオネスに対して、隠し持っていたウィスキーの小瓶を取り出すと自分の(何も入っていない)グラスとリオネスのグラスに並々とボトルの中身を注ぎだした。

「身内の手引と思われる誘拐未遂や暗殺未遂等をうんざりするほど経験すれば、誰だって財閥の当主の血を引いている事が苦痛になる。」
「…けど!」
「…実際、俺が遺産継承権を放棄した時でも、兄貴達の替りに俺を傀儡の総帥として擁立しようとする動きがあった、って話しだ。
 こんな話があがる位だ、おのずと兄弟の間にも溝が出来てしまう。…13の辺りからかな、家で他の兄弟達と顔を合わせる事自体に苦痛を感じ出したのが…。」

そこまで言うとガレスは自分のグラスに注いでいたウィスキーを一口呑み、顔をしかめる。

「…安い合成品は駄目だな。匂いは誤魔化せても、味や喉越しまでは誤魔化せない…。」
「け、けど、血の繋がった兄弟でしょう。話し合えばいつかきっと…。」

沈痛そうなガレスの声に耐え切れなくなったリオネスが助け舟を出そうとした。だが、ガレスは喋るのをやめなかった。

「俺も、そう思った事があったよ。…けど、駄目だった。所詮、餓鬼の声なんか聞いちゃくれなかった。…そして、2年前、俺が家を出るきっかけになったあの事件がおきたのが…。」
「事件!?」
「兄貴達と弟が、お袋とその愛人を暗殺したのさ。」
「!!」
「…その時決めたのさ、この家を出ようってね。」

そこまで、言うとガレスは残りのウィスキーを一気に飲み干し、むせる。駆け寄ったリオネスがガレスの背中をさすり、呼吸を整えさせる。

「…大丈夫!?」
「…ああ。…ごめん。不愉快な話を聞かせてしまって…。これだって、ある意味金持ちの嫌味だもんな。」
「…ええ。あたしには羨ましい。どんな形でも家族が会う事が出来るのが…。」

そこまで言うとリオネスは自分のグラスに入ったウィスキーを煽った。

「…確か、君の家族は…。」

酔いが廻り始めた頭の中でガレスは、リオネスに関する調査ファイルの家族構成を思い出そうとした。

「…妹が一人いるだけ。多分、もう会わない。」
「…リネット=ディキアラ、否、今はシンク=リオルと名乗ってたっけ?ウィスコー大学情報処理研のホープの一人。」
「…ちょ、ちょっとどうして知ってるのよ!?」
「そりゃ同期でも有名な奴だもん。君の名前で、引っかかったんで調べさせてもらった。」
「…ええ、そうよ。あの子はあたしの希望だった。あの子の為なら、何だってした…。けど、あの子に会う資格はない…。」

そこまで言うとリオネスは自分のグラスを再度煽った。グラスを置くとガレスが何も言わずにウィスキーを注ぎいれた。

「…ガレス?」
「…ここが割り出される可能性は殆ど無い。…今晩位は飲み明かしたって大丈夫さ。」

そう言うとガレスは自分のグラスにもウィスキーを注ぎ込んだ。



―同時刻、惑星コーラル 某国首都 スラム街 某廃ビル―

闇の中、一体のアンドロイド―ヒューキャスト―が抜き身の大剣―刀身に宿るフォトンの色からクレイモアと判る―を正眼に構え一閃した。次の瞬間、ヒューキャストより数m先に置かれていた蝋燭が火を揺らす事無く縦に一刀両断されていた。
地に転がった蝋燭がもう一人―ロングコートを羽織った暗い目をした男―を闇の中から浮び上がらせる。

「…ほう、流石は"クリムゾン・ナイト"。相変わらずの腕だな。」
「その名は捨てた筈だが、"P"?」

そう答えるとヒューキャストはクレイモアを一振りしておもむろにフォトンの刃を収束し、"P"と言われた男はロングコートの下から1つの大きな包みを引っ張り出した。

「…そうだったな"L"。」
「それが今の私の名だ。用件は何だ、相棒。」
「ああ、3つある。」
「3つ?」
「まず、お前に頼まれた物だが、入手できた。民需品じゃない、軍製品だ。」

そう告げると"P"は"L"に先程ロングコートの下から出した包みを渡した。

「…入手できたか!…すまない。」
「内容を確認してくれ。偽物掴まされたら、末代までの恥だからな。」
「わかった…。」

そう答えると"L"は包みを解いた。しばらくすると透明な剣身を持った大剣―フロウウェンの大剣―が姿を現した。
"L"はしばらく大剣の刀身や柄等を丁寧に確認した。おもむろに得心したように頷く。

「…確かに軍製品の本物だ。しかし、よく準備できたな。」

そう言われると"P"は仏頂面のまま答えた。

「別に。"蛇の道はヘビ"という奴だ。気にするな。」
「すまない。それで、残りの2つは?」

"L"の言葉に対し、"P"は懐から煙草とジッポーを出すと煙草に火を点けて口に咥えた。そのまま話し出す。

「"今の"上司からの言伝だ。"例のあばずれを急いで捕まえて来い。"との事だ。」
「たかが、ニューマンのチンピラ一人をか?何をあせっているのだ、彼は?」
「…復讐が怖いのだとよ。…玉が小さい奴はこれだから…。」

そうはき捨てるように言うと"P"は"L"の方に向き直り、今度は少し固い口調に切り替えた。

「"本来の"上司からの命令だ。明後日未明"総仕上げ"を行う。」
「…ほう。そろそろ、やんちゃ坊主達にお灸を据える、と言う事か。」
「…必要な情報も手に入ったので、後は足跡を消すだけだ。
 "ドライブ"を漏らしていた馬鹿は"本来の"上司の方で始末したそうだからな。」
「…フム。」
「俺達の仕事はこの地に"ドライブ"があった痕跡を消すだけだ。それだけだ。」

釈然としないような"L"にそう告げると"P"は現れた時と同じように闇に溶け込むように姿を消した。

「…判った。」

そう答え、"L"は"P"の気配が完全に消えたのを確認すると、鳥嘴状のフェイスカバーを開いた。
そこには本来ヒューキャストのセンサーユニット群のある場所に、端正と言っていい男性の顔が現れた。おもむろにポケットからロケットを取り出し、それの蓋を開く。

「…モルゴース、私はやはり、あの時、君と一緒に死ぬべきだったのだろうかな?」

中の写真に写された妖艶な女性に話し掛けると"L"はそのままフェイスカバーを降ろした。




 


 
 
3rdNight
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