| |
ファイル1:再起動/リブート





転送は瞬時に完了した。
エステからショップエリアに戻ってきたときもそうだったが、ほんの少し違和感を感じる。

「軽くなったよねぇ。転送」

そうだ、格段に"軽い"のだ。
それはつまりテレポーターの利用者の低下、アークスの活動減退を意味している。
違和感の正体にやっと気づいた僕は、それを教えてくれた相手に顔を向けた。

「ああ、そういえば軽くなっ……ぶっ!?」

むせた。

ぴ。白い肌に銀髪の少女。アークスにそうした見た目の者は特に多いのだが、彼女はメジャーなスタイルとはかけ離れていた。
僕とは違う方向性にぶっとんだファッションセンス。アクセの使い方。僕はなんだかんだで説得力のあるコーデを心掛けているが、ぴさんは違う。
カオスに傾いたコーデは前衛的、ともすれば芸人の出落ちファッションといって差し支えない。
これをするには大変な勇気が必要だと僕が思うことを彼女は平気でやる。
なにせ銀髪といったが、いまは頭に2束の毛が生えているだけで、残りの髪は剃毛してしまっている。つまりハゲだ。それでいいのか少女。
眼部にはモノアイが光り輝き、ヂーッという微音を発しながら左右に行ったり来たり状況を精査している。服は青いぴったりとした水着、いわゆるスク水だ。
すべてがすべてミスマッチであり、それがぴというキャラだと強烈な自己主張をしてやまない。

「今日はごろーちゃん、かっこいい系かぁ」

ぴさんがモノアイで僕を見た後そう言った。ちゃんと見れているのだろうか?

ちなみに、ごろーちゃんというのは僕、リバーのことだ。このチームのメンバーのほとんどが僕をごろーちゃんと呼ぶ。
言い出したのはチャコさんだが、本人に由来を聞いたところ「フィーリング!」の一言だった。
しかし、その点において僕はましな方といえる。少なくとも人の名前をしているからだ。

「ごろーちゃん、大丈夫? はいお水」

濃緑の髪をショートカットで整えた女性がグラスに入った水を差し出してくれた。
エミーナ・アクセリア。元来法撃力に才を見いだされるニューマンでありながら、肉体を行使するハンター、およびファイターを専業にしているアークス。
性格を示すかのように柔和な顔立ちと充分に女性的な肢体をしているのだが、本人は肩幅の広さを気にしている。事実、僕よりも広かった。

「鯖味噌ー、なにしてんのー? あ、ごろーちゃん来たのか」

僕にごろーちゃんと名付けたチャコさんがエミナさんを鯖味噌と呼ぶ。
ワ=ショクという系統にカテゴライズされる料理名。名の如くサバという魚をミソという調味料で味付けしたものらしい。
とろり、となるほどに煮込まれた魚の肉とそれを優しく包む深い味わいは確かに官能的ですらあるが、おおよそ人を呼ぶときに使うものではない。
どうしてかチャコさんは人のあだ名をその人と全く関係のないもの、それも料理名などから取る傾向にある。
さすがに鯖味噌というのは言いにくいのか、僕のごろーちゃんほど浸透はしていないが。

「ごろーちゃんがむせちゃったみたいで」

しかし、当の本人は鯖味噌と呼ばれることに慣れきっているようなので問題はないようだ。

「……エミナさん、ありがとう。ところで一つ質問をしていいかな? なんで水着?」

レモンの果汁が数滴入った水をゆっくり飲みほした後、二人の姿を見て聞いた。
エミナさんは白い健康的なスポーツビキニ。チャコさんは黒いパレオ付きのビキニを着ていた。
よく見ればチャコさんは片手にビールのジョッキをもっている。

「せっかくだからチムルを海岸につけてみたのだ。で、だったら泳がなきゃってなるじゃん?」

チムルの奥から潮風がそよそよと吹き込んできた。海の香り、波の音。

実を言えばチームルームとは部屋ではない。チームごとに貸与される独立した中型シップである。

現在、(仮)のチムルはシップ後方部を開口して惑星ウォパルの海岸に接舷していた。
テレポーターを使用するとまるで気づかないが、どうやら僕はアークスシップから何光年も離れた惑星ウォパルに来ていたらしい。

 


 
 

| |