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ファイル1:再起動/リブート





そういえば、去年も海岸に来ていた、とふと思い出し、口を開く。

「そういえば、今年も『ナツ』が来たんだね」

「夏といえば海ってマリさんがいってたしねえ」

「夏の風物は海、花火、夏祭り、虫、スイカ、いろいろありますね」

エミナさんの言葉を補足するように当のマリさんが現れる。
一歩歩くたびに綺麗なブロンドの髪と、たわわに実ったスイカのような巨乳が揺れた。
だが、身にまとう知的な雰囲気がまるでいやらしさを感じさせない。

マリエール。僕が見たところ、(仮)でもっとも常識的な人間は彼女だ。
農業区画出身のハンター。文化学および社会学に造詣が深く、一見物静かだがユーモアのある大人の女性である。

「なんで海なんだろう?」

「私たちの先祖は7〜9月に気温、湿度が上昇するところに居住していたんでしょう。公転に対し地軸の傾いている惑星の一地域の文化を引き継いでいるんじゃないかしら」

なるほど、暑苦しいから海に来てさっぱりしようというわけだ。

「もしかして、オラクルがどこの惑星から来たのかそれでわかる?」

いつの間にか来ていたオタさんが質問する。彼は好奇心が人一倍旺盛だ。
僕らの発祥の地は1000年を超える外宇宙探査時代に情報が失われている。その正体がどこというのは浪漫に満ち溢れているのだ。

「オラクルの暦からして、公転周期が365日、自転が24時間の惑星だと思うけれど、該当する惑星は非常に多いからわからないわね」

「まじかぁ、残念だなぁ」

「人が住めそうな場所って色々あるし」

チャコさんが海の方を眺めながらそう言う。先ほどまで太陽が照り付ける青い空と海だったのが、もう朱に染まっていた。
この惑星ウォパルの自転周期はやたらと早い。オラクル標準時における10分ほどで1日が経過する。

横を見れば、マリさんが首を傾げていた。

「……ここまで早い日没はありえないはずだけれど……」

「でも、実際に夜になったのじゃ、さぁ花火じゃ花火!」

のじゃ系口調で現れた褐色銀髪の少女、つくね。金色の瞳を輝かせる美少女である。
(仮)ではつくねの愛称で親しまれているが、本名はレイン。
つくねの方の名付け親はむろんチャコさんだ。
なお、鳥肉を団子にして蒸したその料理を本人はいたく気に入っている。特に軟骨を混ぜておき、スープに入れると美味しいのだとか。

そんなつくねはどうみても12〜14歳くらいの少女なのだが、アダルトな黒い水着を着こなしている。
どうもつくねは妖艶でエロティックな雰囲気を纏う傾向にあるらしく、彼女のファンは多い。

もっとも、僕には正直いってつくねの魅力はよく分からない。
なぜなら、つくねは(仮)に入るずっと前から僕の幼馴染であり、そういった感情が介在する余地はまるで無かった。
しかし、つくねに魅了されるものは後を絶たない。現に、つくねの背後にいま一人いる。

「つくねちゃん……! すっごいえろいよ! 向こうでお姉さんと熱いあばんちゅーるしよ?」

燃えるような赤髪をした女性が鼻息を荒くしながらつくねを見ていた。枯葉さんだ。
他の何よりもかわいい子とくに女子が大好きな少女である。
黄色の上とデニムショートの活発そうな水着が似合っていた。

「おお、よいぞ。ロケット花火の撃ち合いでもするかの?」

いかん、これは危ない。色んな意味で危ない気がする。
すちゃっとつくねはロケット花火を構えているが、つくねはオタさんと同じ全職制覇型だ。
おそらくガンナーの要領で枯葉さんを無邪気に蹂躙する。
逆に、まかり間違って枯葉さんがつくねに組み付くことに成功したら、それはそれですごいことになるだろう。
うん、止めたほうがいい。

「枯葉さん。こんばんわ」

「あ、ごろーちゃんだー!! こんばんわー!」

僕が挨拶をすると、枯葉さんの眼に正気が宿った。
枯葉さんは百合方面に発酵した女子だが、こうした挨拶はチームの誰よりも丁寧にする快活な子だ。
そして彼女には弱点がある。

「その水着すごい似合ってるよ。とてもかわいいね」

「!? 私なんてそんな!?」

枯葉さんにかわいいというと、それだけで耳まで真っ赤にしてうろたえ、しどろもどろになった挙句に「うー!!」と叫んで走って行ってしまった。
ざぶーん、と海に突っこんでいく枯葉さん。そう、彼女は他人をかわいい!と褒めまくるのに、自分がかわいいと褒められることにはまるで耐性がなかった。
なお、嘘は言っていない。僕は本気で(仮)の女子では枯葉さんが一番かわいいと思っている。
言動が残念すぎてあまり注目されてないが、つくねと枯葉さんのツーショットは月と太陽のようで釣り合うのだ。
……だが、どうみてもさっきのツーショットは事案寸前だったので、台無しもいいところだった。彼女の業は深い。

「のう、リバーよ。枯葉は一体どうしたのじゃ?」

「助けてやったんだよ。お前と彼女を」

「??? まぁよいか! じゃあリバーおぬしが花火を!」

「僕はパスだね。チャコさんが相手してくれるよ」

そう、軽くあしらう。
今はガンナーの真似事をしたい気分じゃなかった。
冷たい態度と取られることは無い。そこらへんは永年一緒にいた為に互いに分かる。
案の定チャコさんは乗り気になり、つくねと一緒に砂浜で遊び始める。
僕は、チムルに備え付けられたバーで寛ぐことにした。


 
 

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