「なぁ、実験対象を見つけて実験するのは面白いだろ?」
「いきなりどうした、ゼンチ」
「後ろを振り返ってみるといい」
振り返らなくたって分かる。僕が倒してきた敵の山だ。フォトン化されドロップとなっている。
ドロップ。Dissolved Resource of Photon:分解性フォトン資源。
アークスの武装、薬品、消耗品、ディスクやメセタは個々人が携帯している分子アセンブラによってその場で瞬間的に生成される。
ただ、それだけではフォトンが無く、フォトン技術で稼働する物品は機能しない。矢だとか弾だとかの消耗前提の弾体までしか作れないのだ。
アギトのような実剣でも同様だ。ああいった武装は分子構造の結合を強化するためにフォトンが使用されている。
故に、分子アセンブラで物品を作成するためには分解性フォトン資源を逐次採取する必要があった。
また、フォトンにはそれぞれ複雑な波形があり、特定波形を要求する物品も少なくはない。
特に希少な分解性フォトン資源を要求するものをレアドロップという。
今の僕の視界はドロップを認識できているが、これはAR:強化現実による補正によるものだ。
今にも消えてなくなりそうな揺蕩うフォトンに武器やユニットやメセタのアイコンを上から被せているだけに過ぎない。
取得したドロップはフォトンのままでその状態を保存され、いざ使用するときになって分子アセンブラが稼働する。
武装を格納する際もフォトンにまで分解してしまえば手を圧迫することもない、という寸法だ。
「彼らを練習台にしてかわいそうだとは思わないのかい?」
「迂遠だな。ゼンチが言いたいことはこういうことだろ?
アークスが異星生物にしていることと、お前がアークスにしてきたこと。それはなにも違わないってそう言いたいんだよな?
確かに違わない。ルーサーの実験に僕は嫌悪感を覚えたけど、納得しないわけじゃない」
「君、正気か? とてもアークスの発言とは思えないぞ」
誰かに聞かれたら人格を疑われそうである。でも、アークスが行っているのは事実酷い行為ではあるのだ。
ダーカーに浸食されているだとか、凶暴化しているだとか理由はあるけれど、それでは完全に無害なラッピーを倒す必要はない。
多くのアークスはレベルアップやレアドロップを求めて、つまりフォトンを手に入れるために惑星に来ている。
僕も、昔はそれに疑問を覚えていたけれど、今はそれがアークスなんだと割り切ることにしている。
ひょっとしたらプロジェクト・リブートで示すべきアークス像とは対極かもしれないが。
「同族を実験体にしてるなら話は別さ。けど、お前は人間じゃない、フォトナーだ。ニューマンに似てるから勘違いするけどな。
だから理解できるんだよ。お前がしてきたことは僕らがレベルアップやレアドロップを探すために異星生物を殺すのと何も変わらないってね。
でも、さっきウーダンが全力で抵抗してきたように、僕らも抵抗する。で、お前はそれでうっかり殺されたマヌケってだけだろ?」
僕の挑発に対してゼンチがどうでるかと思ったが、無言だった。
反発することも、怯むこともなく、ただ聞いている。
「ゼンチ?」
「……殺されたマヌケはオリジナルだ。この僕じゃない」
「そうだな。マグになっているけどマヌケじゃないな」
「フン……。ところでリバー。話は変わるけれど、気配に気づいているかい?」
気配? マップ上には何も表示されていない。
ゼンチに初めて名前を呼ばれた気がするが、まずはその気配とやらが気になる。
「その様子じゃ、索敵機能はさほど強化されてないみたいだな。濃厚なダーカーの匂いだ。だけどなんだアレは……虫でも魚でもない波長だ」
ゼンチは首、というか上体を上げて木々の樹冠の辺りを見ながらそう言った。
アークスの天敵、ダーカーには大きく分けて三種類がある。
虫、魚、鳥。
虫は【若人】の、魚は【巨躯】の、鳥は【敗者】の眷属である。
しかし、ナベリウスには虫か魚しかいないはずだ。
「まさか鳥じゃないだろ?」
「オリジナルが作った眷属? 僕のことが【双子】か何かにバレて【敗者】ごと差し向けられたって線かもしれない」
【双子】の眷属は未だ不明である。
そういえば、ダークファルスにはもう一体いた。確かそいつは……。
「避けろ! 起点指定テクニック!」
ゼンチの警告。反射的にステップ。
一瞬前に自分たちがいた場所で巨大な爆炎が発生する。
ラ・フォイエ:ゼンチが言ったように発動起点を座標指定し、球状爆発を発生させるテクニック。
思い起こしていた相手は【仮面】だった。
そいつはもしかしたら未来の自分かもしれない相手。
しかし、実際に攻撃してきたのは鳥でも、未来の自分でもなく。
「HOHOHOHOHO!」
ガンテク。過去の自分だった。
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