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ファイル3:変革/Trans








四日後。

今日の集会は赤部屋で行われた。
重機を用いる工事が止み、赤部屋に振動や騒音は漏れ聞こえてこない。

皆は赤部屋の床に座ったり、塀のヘリに腰かけたりしている。

「……ボスは、どこだ?」

メルさんがきょろきょろと一同の顔を見渡す。

「よちおがいつも集会にでると思ったら大間違いだ」

湊さんの容赦ないツッコミ。
なるほど、メルさんの言うクーナのアポとはボス⇒ウルク⇒クーナの順を通って取得するつもりだったらしい。

「他にウルクちゃんに連絡付けれる人はいないのか!?」

「あいつ、そういうの引き継ぎしなかったよ」

りあこさんが言った。
さもありなん、とばかりに皆が頷く。

がくり、と挫折したメルさんを置いておいて各自が報告を行う。
報告というのはプロジェクト・リブートに関して何をしたか? どんなアイデアがでたか? ということだ。

それらの報告がブレインストーミングされると、リブートの外郭が薄らと見えてくる。

「いくぞー! まじかるまいろん☆ぱわー!!」

ろんちゃんが普段コマーシャルを映しているモニターに近づいた。
頭頂のギルナッチランプはいつもより多めに回っている。
画面にノイズが走り、報告された事項が表示された。あのランプはどういうものなんだろうか。

民間人から見たアークス/惑星探査/アークスの起源/ダーカー駆逐/ルーサーに聞く/クラフト/レアドロップ掘り/民間人の救出
/暴動騒ぎ/アークスにインタビュー/戦闘機保護/民間人の護衛/TA!/異星知性との交流/ストライキ/クーナライブ

アークスの業務内容や、アークスを取り巻く環境、リブートを成功させるためにどうすべきか、といったことが羅列される。
僕の目を惹いたのは「ルーサーに聞く」だった。


『ゼンチ、聞きたいことがある』

『なんだろう? アークス発足時のメイキングコンセプトかい? それとも、僕が歪めたアークス像かい?』

察するのが早い。言葉のトーンにはからかうようなニュアンスが含まれていた。そのことに不快感を抱きながらも僕は質問を続ける。

『……まずは前の方から』

『元々アークスは「ダーカーを駆除する戦闘集団」だった。それ以上でも以下でもない。ダーカーの駆除が至上命題で異星生物との交流なんて二の次さ』

『それだけなのか? 他に目的とかは?』

『無い。アークスの存在理由はダーカーの駆除だ。二の次にされている全ての事項はオマケに過ぎない』

だからといってダーカーの駆除をする者=アークスというのは今のアークスに全面的に受け入れられるのだろうか?
もちろん、ダーカーの脅威は理解できているから皆はそれに同意するだろうけど、リブートの目的である士気向上には繋がらない気がする。

『アークスはダーカーに対抗するための軍隊である、なんて言ってもなぁ……』

『リバー、軍という古語に与えられた意味は今のアークスとは異なる。軍隊とは受動的な存在だ。なにかが起こった時に戦闘すべく存在し、在るだけで他者の反抗を抑圧する者共が軍隊だ。でもアークスは違うだろう?』

その通りだった。
アークスはダーカーを見敵必殺/サーチ&デストロイするために存在する。
さらに、それを補佐するためにアークス以外の人類はオラクルの様々な業務についている。
途端に、自分が立っているこの世界がとても虚しく、歪んだものに思えてきた。
もしかしたら、僕はディストピアに生まれついたのかもしれない。

そう語ると、ゼンチは鷹揚に頷いた。身体が無いのでマグがゆっくりと上下移動しただけなのだが。

『良い兆候だ。君は、今まで疑問にも思わなかったことに気付けるようになった。な? 知るということは凄いだろ? 全知というのはこの先にあるんだ』

『……情報の大切さは知っているつもりだ。じゃあ、後者について言ってくれ。お前はアークスをどうしたかった?』

『アークスをどうこうしたい、という欲求なんて無かったな。僕は全知を手に入れたい。利用できるものはなんでも利用するつもりだった。そして、アークスは絶好の玩具であり道具だった』

『だから【若人】と癒着していてもアークスの活動自体は止めなかったのか』

ルーサーがその気になればアークスはとっくの昔に壊滅していてもおかしくはなかった。
そうならなかったのはアークスが無くなるとルーサーにとって都合が悪かったからだ。
そして、その時僕は気付きたくもないことに気付いた。

『ゼンチ。お前って結構優秀だったのか?』

『なんだいきなり!? 悪いモノでも食べたのか?』

『お前は一人で宿敵のダークファルスと接触して取引をした挙句、向こうに寝返ったんだろ? それって異星体との交流という視点で見れば快挙だと思うぞ』

よく考えたら【巨躯】をナベリウスに封印してから十年は平和だった。それはこいつのおかげだったのかもしれない、とふと思ったのだ。

『……君、やっぱり変人だな』

せっかく褒めたというのに呆れられてしまったようだ。微妙な空気が横たわる。



「ごろーちゃん?」

トントン、と肩を叩かれた。横を向くと、オタさんがこちらを見ていた。
ゼンチとWISをしている間になにかあっただろうか?
アークス候補生時代、学校で居眠りをしていて突然教師にさされた時のようななんともいえない感覚を思い出す。

「ごめん、ちょっとWISしてて気づかなかった」

「ああ、それは別にいいや。鯖味噌どうしてるか知らない?」

「エミナさん? いや、僕は知らないな。どうかしたの?」

赤部屋を見渡すが姿は見えない。枯葉さんみたいに迷子、という線はこの場合ないだろう。

「最近、なんでか知らないけど鯖味噌元気なくてなー」

初耳だ。一体どうしたのだろう?


 


 

 

 

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