ここは、場末の旅館を思わせる。
その評価は正しく狙ったもので、(仮)メンバーの憩いの場になればいいなとセッティングしたものだった。
だけど、この家は姉妹二人で使うには広すぎる。そうエミーナ・アクセリアは思う。
腰かけているのは古びたゲーム筐体の丸椅子だ。
妹はミッションに行っていて今はいない。背中側にある筐体からはゲームのBGMが寂しく漏れ出ていた。
妹のサフランは最近アークスになった。
きれいな銀髪をショートにまとめた褐色の少女。生来の明るさは戦場にあっても希望を見出してくれる。
エミーナにとって自慢の妹だ。
なんでこんな時期にアークスになったのと問えば、早くお姉のようになりたかったと答える、そんな妹だ。
「……今、ボク酷い顔してるなぁ」
顔を確かめるのに鏡なんて必要ない。フォトン知覚で自分を認識すればいいだけだ。
普段よりもずっと陰気な女がそこにいる。
今朝はサフランの顔をじーっと凝視しすぎてしまい、妹に笑われた。
サフランが何処かに消えてしまいそうな、そんな気がしたからなのだが、彼女には気づかれていないだろうか?。
「こんなになるんだったら、モノリスに触るんじゃなかった……」
エミーナとサフランは実の姉妹ではない。そもそも種族が違う。
エミーナはニューマンで、サフランはデューマンだ。
だから、こんな気持ちになっている。
あのモノリスに触れた時、様々な記憶が焼きこまれた。
最初にあったのは違和感だ。
しばらくその正体には気づかなかったが、あとで友人から渡されたデータファイル:イベントクロニクルを閲覧して分かった。
デューマンは、いなかった。
デューマンは、遥か昔に漂着した人と龍の同化実験データから生まれた種族。
そのデータの正体はルーサーの実験データ。シオンがそれを過去に送り込んだのだ。
歴史改変がシオンの手で行われなかったらデューマンはいない。
クーナとハドレッドを巻き込んだ実験が行われていなかったらデューマンはいない。
サフランは、いない。
無論、今はいるのだから気にするようなことじゃない。
しかし、ねっとりとした粘性の不快感がエミーナに纏わりついていた。
たとえば、ゼンチ。
友人の枯葉はかわいいと言っていたし、その装着者のリバーに至ってはマグとして装備しているが、今のエミーナにとっては複雑な相手だった。
彼、というか彼のオリジナルがいなければ妹は存在していない。けれど、ルーサーの手で妹が穢されたようにも感じている。
妹はどうだろう? サフランが自分の、デューマンの出自を知ったらどう思うのだろうか?
ぐるぐるとエミーナは思い悩んでいた。
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