1st Chapter. 生を謳歌する者、死を見つめる者
Cross Point








――朝日が射し、僕は目を開く。
そのまま起きあがり、周囲を見回す。
簡素なベッドと、固定式の窓。ロッカー。ベッド脇に置いてある端末。バスルームとそこに据え付けられたトイレ。ルームライト。
あるのはそれだけだ。他には何もない。
清潔ではあるが、人の匂いがしない、独房のような部屋。
僕はこの部屋が嫌いだ。いや、嫌いだった、と言うべきか。今は……どうとも思わない。思う必要がないから。
長い月日押し込められ、殺された感情は、やがて変質し、枯れ果て――いつしか、僕は淡々と毎日を過ごす様になっていた。
何も感じず、何も意識せず、ただ命令を忠実に実行して過ごす毎日。
意志のない、人形のように。

「……」

そうする事が、僕の生きる術だった。
そうでなければ、生き残れない。代わりは沢山いるのだから。
過去も未来もない。他人も自分も無い。
ただ、静かに、そして確実に破壊を振りまく"冷徹な機械"が必要な場所。
それが、ここだった。
僕はここで生きねばならなかった。いや、生き続けねばならなかった。
居場所が欲しい――僕が唯一、ここで望んだ事。

「……ッ痛……」

起き抜け特有の、脳裏に浮かぶあやふやなイメージをかき消すように襲う、いつもの偏頭痛。
唯一身につけていた、首に下げている胸元のピルケースから薬剤を取り出し、飲み込む。
そのまま、何も身につけずにシャワーを浴び、用意していたタオルで身体を拭い、下着を身に着け、ボディにフィットした黒いTシャツと、対照的にラインを見せないだぼっとした黒いパンツを着込んだ所で、これもまたいつも通りに軽合金製の扉がノックされ、"店長"が顔を覗かせた。

「ティル、そろそろ時間だ。支度しろ」
「はい、"店長"」

今日もまた、いつもと変わらぬ一日が始まった。
その時、までは。




 







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