1st Chapter. 生を謳歌する者、死を見つめる者
Cross Point








「総員傾注」

"店長"の声に、狭くて薄暗い部屋の中のひそひそ声が静まり返る。

「……集まってもらったのは他でもない。プロジェクトRDHの事だ」

開店前の場末のBar、"Lunatic"。
気取った名前。だがその真実は"狂気"とはよく言ったものだ。
そのLunaticのあまり広くはない大部屋に、僕も含めて様々な年齢の人間が十数人集まっていた。まだ10代そこらの若者から、老齢の域の老人まで。
殆どがヒューマンだが、ちらほらと僕のような異人種も見かける。そんな中で特有のくぐもった声で告げるのは、"店長"の隣に陣取っている、GH490に偽装した"端末"の内の1体だった。

「――事前情報で諸君らも既に知っているだろうが、16年前のプロジェクトRDHの情報の一端を、惑星警察及びガーディアンズが嗅ぎつけた。
 更に悪い事に、当時の生存者がまだ残っている可能性が高い事も示唆されている。我々上層部は、奴らへ確保される前に、対象の速やかな削除を期待する」

手元の端末へ対象の情報が転送され、今回のターゲットが明らかになった。
科学者、保母、製薬会社社員、ガーディアンズ隊員……対象はバラバラだったが、全て何らかでプロジェクトRDHに関わった人間だという。
転送されたデータを各々が眺める内に、少ないながらもどよめきが走り、不躾に僕の方へ視線を巡らせる者も居た。

(……なんだ、これは)

液晶パネルに映ったそいつの顔は――髪の色と瞳の色こそ違えど、僕に瓜二つだったのだから。

『エミーナ・ハーヅウェル』

名前の欄には、そう記載があった。

(……気に、いらないな)

なんとはなしに、そう思う。
恐らく探査衛星で撮られたものだろう、街中を連れと歩く姿が鮮明に写し取られていた。
幸せそうなその表情に。苦労も大してしていないような、その横顔に。
僕は何故か、胸にモヤモヤするものを感じていた。




 







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