「総員傾注」
"店長"の声に、狭くて薄暗い部屋の中のひそひそ声が静まり返る。
「……集まってもらったのは他でもない。プロジェクトRDHの事だ」
開店前の場末のBar、"Lunatic"。
気取った名前。だがその真実は"狂気"とはよく言ったものだ。
そのLunaticのあまり広くはない大部屋に、僕も含めて様々な年齢の人間が十数人集まっていた。まだ10代そこらの若者から、老齢の域の老人まで。
殆どがヒューマンだが、ちらほらと僕のような異人種も見かける。そんな中で特有のくぐもった声で告げるのは、"店長"の隣に陣取っている、GH490に偽装した"端末"の内の1体だった。
「――事前情報で諸君らも既に知っているだろうが、16年前のプロジェクトRDHの情報の一端を、惑星警察及びガーディアンズが嗅ぎつけた。
更に悪い事に、当時の生存者がまだ残っている可能性が高い事も示唆されている。我々上層部は、奴らへ確保される前に、対象の速やかな削除を期待する」
手元の端末へ対象の情報が転送され、今回のターゲットが明らかになった。
科学者、保母、製薬会社社員、ガーディアンズ隊員……対象はバラバラだったが、全て何らかでプロジェクトRDHに関わった人間だという。
転送されたデータを各々が眺める内に、少ないながらもどよめきが走り、不躾に僕の方へ視線を巡らせる者も居た。
(……なんだ、これは)
液晶パネルに映ったそいつの顔は――髪の色と瞳の色こそ違えど、僕に瓜二つだったのだから。
『エミーナ・ハーヅウェル』
名前の欄には、そう記載があった。
(……気に、いらないな)
なんとはなしに、そう思う。
恐らく探査衛星で撮られたものだろう、街中を連れと歩く姿が鮮明に写し取られていた。
幸せそうなその表情に。苦労も大してしていないような、その横顔に。
僕は何故か、胸にモヤモヤするものを感じていた。