(……随分寂れてるな、ここは)
"Lunatic"のあるホルテス・シティ中心街から、地下鉄を乗り継いで旧市街地区に到着した頃には、既に陽が傾いてきていた。
超高層ビルの多い中心街――俗に言う"新市街"から少し外れただけだというのに、その一帯はまるで開発から忘れ去られたかのような錯覚に陥る。
旧態然とした中〜低層の建築物がが乱立し、道は入り組み、その建築物も大半がも建材の主構成物である生プラスチック材が耐用年数を超えて剥がれ落ち薄汚れ、夕暮れも相まって雑然とした多重構造のスラム街、と言った方がいいような雰囲気が感じられる。
それもそのはず、元を辿ればここは大戦以前からあった大陸の一部で、戦後残っていた遺構を足掛かりに拡張に拡張を重ねて成り立った街らしい。
当時は盛況を誇ったのだろうが、今や観光に来る人間はおろかパルムの一般人すら滅多に近寄らない地域となり果て、居るのはその日を生きるのに精一杯な人間達がたむろしているのみだ。
(……僕のようなならず者や、ゴロツキが身を隠すには、ぴったりの場所か)
僕はいつもの黒いストーリアの上下に、顔を隠す為のサングラスと大きめなオーバーコートを羽織り、街の中へと足を踏み入れた。
雑踏。熱気。スエた臭い。
夕暮れから夕闇に近づきつつあるこの時間帯は僅かながらも活気づき、一人で居ることが多い僕には居づらい場所となっていた。
軒先で違法なジャンクパーツを法外な値段で売りつける闇業者。
建物の影で怪しげな粗製合成麻薬をちらつかせるヤクの売人。
道の往来で身体のラインがはっきり分かる程の薄手の布を纏って、男共を怪しく誘う娼婦。
酒臭い息を吐いて喚き散らす酔っぱらい。
外から入ってくる人間がよほど珍しいのか、誰も彼もがこちらに視線を投げかけてくる。
「そこのニューマンのお姉サン、ここらじゃ見ない顔だね。こんな場末に何の用だぃ?」
こちらを値踏みしていたのか、モトゥブ訛りの娼婦らしきビーストの女が一人、こちらに声を掛けてきた。
敵意は感じられなかったので、こちらも普通に接する。
「……人を、探してる」
「あら残念!可愛い顔なのに……ふぅん、人ねぇ?」
何かを含んだ物言い。
手持ちから幾らか握らせてやると、彼女は目的の建物がすぐ近くである事を教えてくれた。
「……それにしてもあのお医者サン、確かに腕も確かで料金も親切で、アタシらも有り難がってるんだけどサ……スクリーム治療協会のシマに堂々と乗り込んで商売してるンだから、度胸あるわよネ」
どうにも珍妙な名前を持つらしいその協会が、今回のターゲットの雇い主らしい。
止めはしないが行くなら注意しろ……という事か。
「忠告、感謝する」
「んふふ、興味があったらまたいらっしゃい。アンタなら歓迎するワ」
普通なら相応に準備してから突撃するものだろうが……面倒だ、正面突破で行かせてもらうさ。