「……ダメだ、許可できん」
「何故です?!」
思わずテーブルを叩いて叫んでしまった僕に、"店長"はまぁ落ち着けと一言挟んで煙草の煙を空中へと吐き出した。
「前回の如く、発作が出たらどうする?
撃ち損じた場合は?唯でさえ一回失敗してるんだ。もしおびき出されたとしても、それはこちらの意図通りとは限らんぞ」
「……おびき出したはずが、逆におびき出された、という事になる、と?」
「そーいうこった。
それに、こないだのシャフト落としが成功したのはあくまで同時多発の奇襲が功を奏したかってだけだ。あまり奴らを舐めない方がいい」
「……」
"店長"の言い分にも一理ある。だが、急がねば僕の立場がどうなるか"店長"も分かっている筈なのに。
「……ティル、急いては事を仕損じる。
俺達の仕事は"デリート"だ。スマートに、痕跡なく、跡形もなく証拠を消し去るのが仕事だ。そこを忘れちゃなんねぇ。
――上には俺から言っておく、心配すんな」
「……はぃ」
店長は一つため息を吐き、後ろからウイスキーのボトルを一本取り出した。
「"店長"?」
「たまにゃお前も付き合え。
行き詰った時は、飲んで寝るってのも案外解決策になってな……っかー、やっぱロックならモトゥブ産のモルトが一番だな」
「……アルコールは、脳細胞を破壊すると聞いています。あまり摂取しない方が」
グラスに琥珀色の液体を注ぎ、氷を入れ香りを楽しむように一口つけた"店長"は、僕の言葉に苦笑を返す。
「ったく、いつまで経っても相変わらず堅物だなぁ、お前はよ……ま、思考の掃き溜めを一掃するには、そういう事も必要ってこった」
「しかし……」
「まぁ飲め。
冷静になれとは言わん、だが少し頭を冷やす必要がある。普段のお前なら一人で、なんて言わネェだろうしなぁ?」
「それは……」
二の句が告げなくなった僕に、"店長"は無言でもう一つグラスを置いてうっすら緑に色づいた白ワインを注いだのだった。