3rd Chapter 痛みの先にあるモノ
Cross Point







■Owner Side.

(チッ……)

ティルの部屋の扉を閉じきってから、俺は内心舌打ちを打った。
自身の心の機微すら満足に制御できないくらいの娘まで使って、無差別なデリートを繰り返す組織の現状。
特に最近のティルを見ていると、俺が今までやって来た事、そして今まで守ってきた物がすべからく無駄な物だと突きつけられるようで――ムカつき、辛かった。
ティルに落ち度はない。寧ろあいつは俺達の被害者に近い。
だからこそ、厳しく育てたんだしなぁ。俺のような人間に頼らず、自らの足で一人でも人生を歩いていけるように、と。

(あれから、何年経ったか……)

天井を見上げ、ふと昔を思う。
俺の意識と"イルミナス"に決定的なズレが生じたのは、
数年前。
ハウザーとかいう急進派が中枢に食い込んでからだろうか?根元に理想として掲げていたはずの「ヒューマン原理主義」が形骸化し始めやがったのは。
そして"イルミナス"総帥であったルドルフ・ランツの死――病死だと公式には伝えられているが、その後のハウザーの権力統一の動きと一致しすぎている。後に残るはハウザーと、急進派に踊らされて思考が硬直化した連中のみ。
今や"イルミナス"はヒューマンの尊厳を守り、有能なヒューマンを守護するものではなく、ヒューマンだろうと異種族だろうと組織に徒なす連中を片っ端から粛清し、世界を自分の都合の良いモノに作り変えるだけの組織に成り果てちまった。
結局、今回の「プロジェクトRDH」も情報の消去などどうでもよく、実際は勢力拡充の為の言い訳に過ぎねぇんだろうな。

(何とか、してやらんとなぁ……)

根元にあった主義主張を忘れ、暴走を始めた組織に未来は無ぇ。
このままでは最悪の形で――例えば周囲を巻き込んで自爆、とかな――空中分解しちまうのは目に見えている。出来りゃそうなる前に、これ以上ティルの手を汚さず手を引かせられりゃいいんだが……。

(周囲がそれを、赦しちゃくれねぇか)

苦い煙を吸い込んで、煙草のフィルターを噛みつぶしていた事に気づき、吸い殻を灰皿に放り込んでため息を吐く。
ったく、難儀な"娘"を持っちまったよな、俺も……。こんな事考えるようになるとは、まさにヤキが回ったって事か。

(まぁ、それも悪くねェ、かもなぁ)

苦笑交じりで腰を上げた時、ビジフォンが呼び出し音を奏でたのだった。










|