■KAY Side.
6畳ほどの薄暗いモニタールームの一室に仄かに浮かぶ二人分の人影。明るさを絞ったこの部屋の光源は、複数のVRモニターから発せられる光だけ……。
正直、人間が常にこんな環境に居ると視力に影響が出るから、本職が"レンジャー"である私からすると恐ろしく宜しくない環境だが、仕事上まぁ仕方ないだろう。
強張った視覚神経を解すように丸眼鏡を外して眉間を揉みながら、私は参謀役のもう一人の人影の報告を待つ。
「――パートナマシナリ経由とガーディアンズ・データベース経由で該当年数の検索歴有。更にその後、取得パートナマシナリであるGH-422、パーソナルネーム"Figh"と共にパルムの非公式工房に出入りした事が判明しています。ハーヅウェル班長が調査を開始したと見るべきでしょう」
「間違いないのね?」
「はい」
「 ……ふぅん、やっと"餌"として動き始めてくれたか……どう思う、ルゥ?」
「あれだけ露骨にしてあれば、誰でも怪しく思うと判断します」
「まぁ、それもそうよねぇ……あそこまでお膳立てしてあげたんだもの」
ルゥと呼んだ小柄な人影――その実ガーディアンズが誇る"ルゥ・システム"のキャスト型端末――から辛辣ではあるが当然の回答を得て、私は一つ溜息。しかし、つい口端に笑みが浮かんでしまうのは私の元来の性格故だろうか。
「いくら"教授"に依頼されたとはいえ、これは立派にガーディアンズ憲章違反。更に誘い出すために捜査利用していたとエミちゃんに知れたら、只じゃ済まないわね。あの子割と生真面目な所があるし……」
「――そのような失態を犯されるような方ではないと存じ上げていますが、コリンズ課長?」
「……言ってみただけよ。
しかしエミちゃんやるわね、PMをガーディアンズ本部じゃなくて知り合いのモグリチューナに連れて行くとか良い勘してるわ。ま、そう分かり易い"答え"は残してないけど……果たして最後までうまく動いてくれるものかしら?」
「ハーヅウェル班長、及びそのパートナマシナリであるGH-422"Figh"の現在持ち得る知識と情報量では、真実へ辿り着くには現状の確立としては相当低い物と思えます」
「それでも、少しでも可能性のあるところは網を張っておく――利用できるものは身内も使う、総合調査部ってのは難儀な商売よねぇ……」
再び苦笑し、あーぁ、と座っていた椅子の上で大きく伸びをする。本当に、難儀な商売だ。
治安を守り社会を守るガーディアンズであるからこそ、寧ろ嫌われ役の仕事は必須であり、外す事など出来ないのだから。
「そっちはそれとして。
"イルミナス"関連の事件レポートを回してくれる?これからちょっと忙しくなるわよ」
「了解しました、メインモニタに出します」
一昨年始めに突如勃発したSEED事変や、ガーディアンズ・コロニーの一部が落下という大惨事にあわせるかの様に多発するようになったテロ犯罪。一見直接関係がなさそうなこれら事件の先に、最近"イルミナス"という秘密結社の存在がちらつく様になってきた。
規模、人員、金の流れ――"イルミナス"は未だ謎の多い組織だが、だからと言って犯罪を指をくわえて見過ごすような我々ガーディアンズでもない。
糸口になりそうな事件、人物を徹底的に洗い出し、少しでも可能性があれば突破口を開こうと総合調査部は情報部と連携して網を張り、情報収集を優先させてきたのだ。
(……そろそろ、頃合いかしらね)
「ルゥ、今回の機動警備部3課が関わってる件、パルム警察は相変わらず?」
「はい。捜査権限を移譲しろと、再三の電話が来ています」
「それじゃ、一部を移譲するように上と掛け合ってみましょ。3課もオーバーワークでそろそろ限界でしょうし、たまには羽を伸ばして貰いましょう」
その時のルゥの表情はなかなか面白かった。
普段見れそうもない、ぽかん、とした表情を浮かべたのだ。
「……ここまで捜査していたのに、成果を放棄されるおつもりですか?」
「――いいえ。権限移譲するのは、鑑識の一部と発生した事件としての部分だけ。
プロジェクトRDHや本質の部分についてはこっちで継続するわ。それに"イルミナス"が相手じゃ、どっちみちパルム警察では歯が立たないしねぇ」
くすくすと笑い、私はモニターに向き直る。
さて。
うまい具合に尻尾、出してくれるかしらね、"イルミナス"さん?