3rd Chapter 痛みの先にあるモノ
Cross Point








"店長"にラム酒の酒瓶を渡し、それとなく見回すと、丁度アイツのグラスが空になった所だった。チャンスとばかりに注文を取りに行く。

「んふふ、次は何飲もうかなぁ?……えーと、すいませーん」
「……お待たせしました。ご注文ですか?」

大分酩酊しているようで、こちらの姿にはあまり気をまわしていないようだ。
素知らぬふりで、僕は注文を待つ。

「えっと、んじゃカルーアミルクを」
「承知いたしました。暫くお待ちください」

カウンターへと戻り、手早くコーヒーリキュールと冷えたミルクをグラスへそそぎ入れ、さっきの小瓶を周囲に見られぬように取り出し、一振り。

(僕の手で直接お前を手に掛けられないのは残念だが――これでようやく、達成できる)

早速出来上がったカルーアミルクをアイツの卓へ持って行った後――。

「あー、悪ぃなぁ」
(!?っ)

すぐそばで、聞きなれた声が聞こえた。
ゴツく、そして繊細な手が、新しいカルーアミルクのコップを持ってきていて――。

(まさか)

背後から聞こえた声は続く。

「ん、どうした嬢ちゃん。景気が悪そうじゃねぇか?」
「あ、えっと……。いえ、なんでも……ないです」
「ふむ……。
 そのカルアミルクなんだが、うちの若ぇ奴が作った時に間違ったモン入っちまったみたいでな、交換させてもらっていいかね?」
「あ、はい 」

呆然とする僕をよそに、アイツは顔を青くして目を回し。
アイツの同僚から連絡を受けたという、長身のヒューマン男性が迎えに来て引き取って行った。
嵐が過ぎて――"店長"がこちらへと、無表情に向き直った。

「ティル、すまんが後でまた倉庫へ来てくれるか?重たいもんあるんで引っ張り出すの手伝ってくれや」





「最初に言ったよなぁ、今夜のスタッブは禁止する、と」

倉庫に連れ込まれた後。
僕は胸倉を捕まれ壁に押し付けられたままで、"店長"に押し殺した声で問い詰められた。

「な、にが……ですか」
「ほぅ、この俺に隠し通せるとでも?袖の下に隠した小さな小瓶だよ。どこから持ってきた!」

あの一瞬で、そこまで見抜かれたとは。
"店長"の目ざとさに内心驚きながら、隠す事を諦め、渋々小瓶を渡しながら僕は反論する。

「そ、倉庫、です――。
  しかし"店長"!何故今やらせてくれないんですか?!絶好の機会なんですよ!!」
「おいおい、俺達までを危険に晒す気か――ティル?」

そう言った途端、"店長"の纏う空気が変わる。
いつもの飄々とした雰囲気のバーテンダーから――裏の稼業の人間に。
ボクの胸倉を掴む右手が、更に力を込めて握られる。

「そんな事すら忘れちまったのか?逆上せるんじゃネェぞティル!
 お前も知ってる通り、ここは前線基地だ。ここで死人が出てみろ、店全体が怪しまれ、捜査が入り全て暴かれて――ガーディアンズにとっ捕まって永久にクサい飯食わされるか、"イルミナス"から別のデリート部隊が俺達に仕向けられて、お前も俺もデッドエンドだ。
 わかるか?
 お前だけのスタンドプレイでお前自身の命が危うくなるのはまぁ仕方がねェ。自己責任って奴だからな。だが、チーム全体まで迷惑かけんじゃねェ。そういう事は二度とするな。分かったか?」
「しかし……」
「しかしもかかしもねェ!今回はあの嬢ちゃんがアレに口付けなかったから見逃してやるが、次回こんな事やりやがったら、その時は――」

ボクの胸倉から手を離し、"店長"は右手の親指を自らの喉に突きつけ、横に引く。

「……俺の責任で、俺自らお前をデリートしてやる。よーく、肝に銘じておくこった」
「……ッ?!」











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