■Owner Side.
「表情が普段より明るいから、てっきりそうかと思ったんだがなぁ……」
ティルに言ったのは半ば冗談にしても……ローゼノムを選んだのは良い案だ。あそこは今や天然の卒塔婆、出口の分からない迷宮とすら言われてる。
そこならうまくすりゃ、ガーディアンズはおろか"イルミナス"にすら察知されずにこの手でティルのデリート作業を止められるかも知れん。
「いくら"店長"でも、冗談が過ぎますよ……。それで、今回の計画ですが――」
ティルはそんな俺の気を知らずに、本当に生き生きとして計画を伝えてくる。
元々感情を表に出す事をしない奴だったんだが、この変わりっぷりはなんだろうなぁ……生き甲斐を見つけた、って事なのだろうか。
肝心のデリート計画にしても、クライズ・シティでの計画に比べれば無理がなく、しかも練り込まれている。
「何点か注意点がある。
まず一つ、呼び出す方法はどうする積もりだ?ガーディアンズ・ネットワークを使うにはちぃとリスクが高いぞ」
「……僕が直接、アイツを呼び出します。
使い捨ての端末から一般回線でガーディアンズ・ネットワーク経由に偽装して送信すれば、相手にも怪しまれずログを消す必要もありません。
その上で対象をデリートし、最後に対象の端末を破壊すれば、証拠は一切残りません」
その他にも何点か問題になりそうな点を質問してみたが、打てば響く小槌の如く回避策が出てくる。ここまで練られているならこいつ単独で例の発作が出てもさほど問題にはならないだろう。
「なるほどな……許可しよう。任務を遂行し、途中どんな妨害があろうと絶対に生きて帰ってこい」
「……はい」
「決行はいつに?」
「明日の、朝に。それで全部終わらせます」
本当に、イイ顔になりやがったナァ。
ティルをここまで変えたあの嬢ちゃん――エミーナって娘は、一体どんな奴なのか……俺まで興味が沸いちまった。
『好奇心猫をも殺す』とはよく言うモンだが、まぁ敵情偵察でサシで話す位、ならバチは当たるまいよ。
「分かった、こっちも手筈は整えておく。
とりあえず、今夜だが……先日酔っ払いどもが冷蔵庫の中身をあらかた駆逐してくれたせいで食材がスッカラカンでな、酒と食材買い足してくるから後でクルマをまわしてくれ」
「はい、"店長"」
さぁて、久々の敵情偵察……一丁気楽に行くとするかね。