4th Chapter ツイン・ジーン
Cross Point







■Owner Side.

「――なぜ、手を掛けなかった?」

暫く歩いた後、俺の尾行を続けてきた人影――どうやら"イルミナス"の諜報員の一人らしい――が暗闇から声を掛けてきた。
眼には見えないが、確かにそいつはそこに「居る」。本人は気配を消して付いて来た積もりだろうが、最初っからバレバレだぜ。
歩みを止めずに応える。

「あそこで対象をデリートしろってか? 無茶言うなよ。
  それにな、俺は部下の仕事は部下にやらせる主義だ。俺が首突っ込んだら部下が育たねぇしなぁ」
「――見ていたのはあの風体の怪しい屋台の店主だけだ。 それに部下の不始末の責任を取るのは、上の役目だろう?」
「ようやく部下がやる気になって、計画も実行に移そうって時に、その部下の功績を横からかっさらう上司が何処に居るかってんだ。何度も言わせるな、俺は殺らん」

人影は焦れるようにじわり、と殺気を滲み出しつつ語尾を強くする。
それ位でトサカに来てちゃあ、デリーターとしては二流以下だ。

「……貴様の命と組織の存続を天秤に掛けるつもりか?貴様の命など、組織の重さに比べれば――」
「強いて言えば敵情偵察だ。
  それとも何か、堂々とデリートして事件を明るみに出したいと?
  あの屋台の大将、ここら一帯の札付きのワルには割と有名人でなぁ。変死体として発見されりゃ、まず間違いなく客の流れやらここら一体の交通状況やら、片っ端から調べ上げられるぞ? 更にサツやらGrにタレこみされりゃ、いずれ俺たちの仕業だと暴かれる。
 そもそも今回の案件、情報が変な具合に漏れる方がよっぽど組織にとってマズイ事態になるんじゃねぇのかぃ?
  それでもいいなら――お前さんがやったらどうだい?」
「……上には報告しておくからな、覚悟しておけ!!」

捨て台詞を吐き、気配が消える。
一人残された俺は、胸元から煙草を取り出し腹立ちまぎれに火をつけ、深く吸い込む。

(……チッ。
 
薄々キナ臭いとは思ってはいたが、よもやここまでとはな……)

やはり、このままじゃ俺達はトカゲの尻尾切りにされるわけか。
やけに事態の動きが早いのは、それが"予め予定された事"だからだろう。
こういった仕事ってのは、自慢じゃねぇが俺ら裏方の地道な準備と作業、そしてマクロな視点が重要だってぇのに、上の連中は恐らくパワーゲームの結果と、その表面のミクロ的な所しか見えていない。
所詮ハウザーの腰巾着やら有力者のボンボンやら、成り上がりばかりで構成された今の"イルミナス"上層部ではさもありなん、か。

(……いいだろう。そっちがその気なら、考えがあるさ)

こっちは相応の"覚悟"で臨んできたんだ。要らなくなったからと簡単に消されてなるものか。

(嬢ちゃん、ティル……ちぃと、付き合ってもらうぞ)














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