翌朝。
古い端末からプロクシを偽装して、1通の偽依頼メールをガーディアンズ・ネットワークへ送信。
成功するにしろ、失敗するにしろ――恐らく、これが僕の最後のミッションになる。
「"生きる価値"って奴は、分かったかよティル?」
いつの間にか背後に来ていた"店長"が、僕にそう問いかける。
一晩、ずっと悩んで悩んで悩みぬいて……結局、分からなくて。
「今も……分かりません。でも――多分これから、分かりに行きます」
生きる価値を見出す事。
それは僕のような人間にとって、自分の立ち位置すら変わってしまうかもしれない事。
それがどんなに危険な事か、分かってはいる。
でも……そうしなければ、もう何処へも進めもしないと悟ったから。
「イイ顔になりやがったな……お前の道を―お前の手で、見つけてこい」
"店長"の一言にひとつ頷き。
「ありがとうございます。――行って、きます」
一言、礼を言うと。
"店長"は一瞬目を見開いた後、微笑を浮かべ一つ頷いてくれた。
(……)
僕は生まれて初めて、"組織"の意志ではなく、自分の意志として戦いへと赴く。
それが、どんなに心細いか、不安定な物か。
(今更ながらに、それに気づくなんて……ね)
"Lunatic"の裏手にあるガレージにあるエア・バイクに跨り、一呼吸。
正直、出ていくのが怖い。
それと同時に、無性にアイツ――エミーナ・ハーヅウェルに会いたくなっていた。
アイツに会えば、戦いを介して何かが分かる。そんな気もしていたから。
(……!)
意を決して、カギを挿入しエンジン動作位置へ。
右足でキック。フォトンエンジンの鋭い排気音が聞こえ、続いて半重力機構の稼働を確認。
頭の鈍痛は収まらない。相変わらず、アイツと戦う事を身体は拒否している。
でも、会いに行かねば、戦わねば、僕は消える。存在ごと。
(――さぁ、往こう)
恐怖感と、高揚感と。
そのどちらもを感じながら、僕はガレージのシャッターを開く。
そして、エア・バイクのアクセルを捻り、バンクしながら全力で早朝のパルム市街へと踊り出た。